第12章 もう少しで信じるところだった

小山千恵子は潤んだ目で天井を見つめ、唇を噛んで声を出すまいとしていた。

浅野武樹は返事がないことに苛立ち、その柔らかな肌を罰するように噛んだ。

すぐに深い赤い痣が残った。

「はぁ……」

小山千恵子の曇った目に少し意識が戻り、歯を食いしばって声を押し殺した。

浅野武樹は情熱の火を点しながら、斑模様の赤い痕を残していった。

指の冷たい金属の指輪が、身体を震わせるほど冷たかった。

「ここは、触られたことある?」

鼻腔に馴染みの香りを感じ、浅野武樹はもはや内なる衝動を抑えきれず、身を屈めて動き出し、部屋中が艶めかしい雰囲気に包まれた。

小山千恵子の瞳は潤んでいて、まるで海を漂う孤舟のようだった。

涙は目尻から、静かに枕へと流れ込んでいった。

この夜は、とてつもなく長かった。

浅野武樹は女の従順さに満足し、何度も際限なく求めた。

空が白み始めるまで、彼はようやく細く柔らかな腰に掛けていた大きな手を放し、彼女を浴室へ連れて行って清めた。

小山千恵子は極度の疲れを見せ、柔らかく浅野武樹の肩に寄り掛かっていた。

濡れた髪が白い額に張り付き、頬は桜色に染まり、儚げで魅力的だった。

浅野武樹は全身が再び熱くなるのを感じ、湧き上がる熱い感情を抑え込みながら、慣れた手つきで小山千恵子の体を清めた。

かつて何度も繰り返したように。

冷水シャワーを浴びた後、浅野武樹は柔らかな女性をベッドへ運んだ。

朝の微かな光の中で、ようやく小山千恵子の腰に広がる青紫の痣に気付いた。

白い長い脚にも、一面の青あざが広がっていた。

浅野武樹の目が冷たくなった、どうしてこうなった?

確かに心の中には怒りがあり、嫉妬に狂っていたことも分かっていたが、こんなに手加減を知らないはずはない。

どういうわけか、浅野武樹の脳裏に、小山千恵子の強情で蒼白い顔と、止まらない出血が浮かんだ。

そして彼女が口にした白血病の話も……

いや、そんなはずはない!

浅野武樹の頭が一瞬真っ白になった。

バルコニーに出てタバコに火を付け、眉間を揉みながら、無意識に歩き回った。

前回第一病院で、きちんと検査したはずだ。

浅野家は第一病院の最大の投資家であり、帝都最高の病院だ。結果に間違いはないはずだ。

しかし浅野武樹の頭の中である神経が絶えず脈打ち、不吉な予感を抱かせた。

バルコニーのガラス越しに、紙のように青白いベッドの上の小山千恵子を見つめ、その目は明暗を行き来した。

悪辣で計算高い女なのに、無害な純真さを装う顔立ちをしている。

もう小山千恵子など気にしていないと思っていた。

しかし他の男の傍らで、愛らしく微笑む彼女も。

そしてステージの上で、輝かしく目を奪う彼女も。

ただ彼の心の中で最も暗い欲望を掻き立てるだけだった!

彼女は欲望の対象となるべきではなく、見られるべきですらない。

できることなら、永遠に彼女を側に囚えておきたかった。

この一生を彼一人への贖罪に捧げさせたかった。

太陽が地平線から躍り出るのを見ながら、浅野武樹は声を潜めて電話をかけた。

「福田千尋、中腹別荘に来てくれ。」

福田千尋は浅野家専属の総合医で、浅野実家に住んでいた。

普段は自身のプライベートクリニックも経営しており、顧客の多くはプライバシーを重視する名門や著名人だった。

浅野武樹は完全に身支度を整え、ベッドの傍らに立ち、上から横たわる女性を見下ろした。

小山千恵子はまだ眠っているようで、微動だにしなかった。

まつ毛が目の下に優しく影を落とし、クマを隠していた。

ひどく責められたせいか、泣いた後の瞼がまだ少し腫れていて、見ていて心が痛むような様子だった。

浅野武樹の表情が和らぎ、身を屈めて、自分でも気付かないほど優しい声で言った。

「起きて。」

ベッドの上の女性は微動だにしなかった。

浅野武樹は手を伸ばし、小山千恵子の細い肩を注意深く揺すった。

それでも反応はなかった。

浅野武樹の表情が引き締まり、心臓が激しく鼓動した。

彼は振り返って携帯電話を手に取り、催促の電話をかけた。

福田千尋は慌てて電話に出て、切断ボタンを押しそうになった:「浅、浅野社長。」

「何をぐずぐずしている?実家からここまでそんなに時間がかかるのか?」

福田千尋は怠慢を許されないと心得て、急いで鞄を持って実家を出た。

桜井美月は急いで出て行く福田千尋を見て、目に計算と悪意の光を宿した。

昨夜のあの電話から、彼女は分かっていた。

岩崎さんがまた小山千恵子というメスギツネに引っかかったのだと。

そして浅野武樹は、一晩中帰って来なかった。

桜井美月は拳を握り締めた。

彼女は自分で事故を仕組み、自分の両足をほとんど台無しにするところだった。

やっとの思いで、その売女の小山千恵子に罪を着せることができたのに。

それなのにまだ浅野武樹のベッドに這い上がることを許すというのか!

幸い、彼女は早くから福田千尋を掌握していた。

桜井美月は冷笑を浮かべた。

小山千恵子、お前は病床で孤独に死ぬその日を待っていればいい!

福田千尋は一刻も無駄にせず、中腹別荘に駆けつけた。

主寝室の入り口に立ち、福田千尋は頭皮が痺れるのを感じた。

浅野家で十年以上働いていても、気まぐれな浅野武樹への恐れは消えなかった。

「入れ。」

福田千尋が入室すると、ベッドの傍らに立つ長身の浅野武樹と、血の気のない小山千恵子が目に入った。

「奥様は……?」

「奥様」という言葉が、浅野武樹の怒りを幾分か鎮めたようだった。

彼は目を伏せ、半歩後ろに下がった:「彼女が起きないんだ。それと、血液検査が正常かどうか見てくれ。」

福田千尋は気が重いまま小山千恵子の検査を始めた。

以前と同様、余計な検査や観察は一切しなかった。

浅野武樹の小山千恵子に対する独占欲と嫉妬心は周知の事実だった。

一通りの検査を終え、福田千尋はほっと息をついた。

「奥様に大きな問題はありません。ただ過度の疲労で深い睡眠状態に入っているだけです。それと……」

福田千尋の言いよどむ様子に、浅野武樹は眉をひそめた:「言え。」

福田千尋は咳払いして気まずさを紛らわせた。

「えー、奥様の体質が非常に弱いので……度を過ぎないようご注意を。」

浅野武樹が怒り出すと思いきや、その厳めしい顔に大きな表情の変化はなかった。

「血液検査の結果が出たら、すぐに私に送れ。」

福田千尋は一刻も長居する気はなく、急いで立ち去った。

先ほど出発前に、桜井美月に血液サンプルの取り替えを要求されていた。

福田千尋の弟は大学卒業して間もなく、まだ病院で研修中で、今は専門医資格取得の重要な時期だった。

桜井美月はこの点を握って、彼を脅し続けていた。

その間、福田千尋も抵抗を試みたが、次々と暴漢が医療トラブルを装い、弟は医師として働けなくなりそうなほどの怪我を負わされた。

福田千尋は恐れをなし、やむを得ず桜井美月の命令に従うことになった。

実験室に着くや否や、桜井美月から催促の電話が死神のように追いかけてきた。

福田千尋は頭痛を覚えながら:「はい?桜井さん。」

桜井美月は声を潜め、悪意を込めて言った。

「私が言った通りにしろ。さもないと……お前の弟の指が無事でいられる保証はないぞ。」

福田千尋は携帯電話を握りしめ、渋々小山千恵子の血液サンプルを取り替えた。

急いで検査を行い、結果を浅野武樹に送信した。

早朝から浅野武樹は会社で会議を行っていた。

朝一の会議中、彼は少し上の空で、時折携帯電話を見つめて物思いに耽っていた。

ピンポーン——

浅野武樹は新着メールを開き、素早く確認した。

案の定、小山千恵子の血液検査結果だった。

彼は急いで目を通し、その眼差しは次第に冷たくなっていった。

最後に末尾の数文字に目が留まった。

「異常なし、重度の貧血。」

浅野武樹の周囲から寒気が漂い、報告中の地区マネージャーを震え上がらせた。

浅野武樹は椅子に寄りかかり、両手を組んで、その目は影に隠れていた。

ただ指輪を絶えず弄る動作だけが、主の怒りを示していた。

小山千恵子、やはりお前は私を騙していたな。

もう少しで、あと少しで、彼は信じるところだった。