千葉隆弘は暴虐の衝動を抑え込み、目を逸らした。
素早く上着を脱いで女性の体に掛け、しっかりと抱きしめた。
腕の中の小山千恵子は羽毛のように軽く、全身から異常な熱を発していた。
「行くぞ」
千葉隆弘は歯を食いしばって命令し、彼女を連れて立ち去った。
浅野武樹は知らせを受け、すぐに中腹別荘に戻った。
遠くから数台のハマーが列をなして走ってくるのが見えた。
浅野武樹は眉をひそめ、目を細めた。
千葉家の次男、随分と派手な出で立ちだな。
真ん中のハマーが浅野武樹の車を通り過ぎ、真っ黒なウィンドウを下ろした。
小山千恵子は真っ青な顔で千葉隆弘の肩に寄りかかり、顔には病的な紅潮が浮かび、額には冷や汗が浮いていた。
また具合が悪くなったのか?
浅野武樹は千恵子の手首の青あざを見て、思わずハンドルを強く握りしめ、千葉隆弘の冷たい眼差しと目が合った。
「千葉さんのやり方は、実に乱暴ですね」
千葉隆弘は冷ややかに浅野武樹を見やり、意味ありげに言った。
「乱暴さでは、浅野さんには及びませんがね」
窓が上がり、車は砂埃を巻き上げて去っていった。
浅野武樹の目は憤怒に満ちていた。
自分の家庭の問題に、千葉家の若造が首を突っ込んできやがった!
どうやら浅野家は帝都で、平穏すぎる日々を過ごしていたようだ。
浅野武樹は電話をかけた。「寺田通、千葉家の帝都での資産と株式を全て調べて報告してくれ」
千葉家に手を出す口実が見つからなかったが、今日こうして向こうから飛び込んできた。
中腹別荘から療養院までは少し距離があった。
千葉隆弘は千恵子を横たわらせ、千葉旦那様に電話を返さざるを得なかった。
一度にこれほど多くのボディーガードを引き上げたため、旦那様は彼の携帯を鳴りっぱなしにしていた。
電話に出るや否や、千葉信夫の力強い声が受話器から響いてきた。
「お前、真夜中にあんなにたくさんのボディーガードを連れて何をしているんだ?銀行強盗でもするつもりか?」
千葉隆弘は必死に音量ボタンと格闘し、最小にまで下げた。
慌てた目で千恵子の方を見やる。
幸い、彼女は目を閉じたまま、まだ眠っているようだった。
千葉隆弘は声を潜めた。
「父さん、興奮しないで。人命救助に来たんです」