小山千恵子は藤原晴子の目を見つめ、瞳に微かな光が宿っていた。
まるで天と人との葛藤が長く続いたかのように、しばらくしてようやく小声で口を開いた。
「わかったわ。約束するわ、治療を受けるわ」
千葉隆弘は大きく息を吐き、今夜初めての笑顔を見せた。
藤原晴子もほっと息をつき、座って小山千恵子を見ようとしなかった。
「隆弘、あなたから彼女に話してあげて」
千葉隆弘は小山千恵子のベッドの横に座り、静かに話し始めた。
「晴子さんは早くから僕に頼んで、郊外のアトリエで襲われた件の調査を続けていたんです。今日ちょうどいい知らせがありました!」
小山千恵子は驚いて彼と藤原晴子を見つめ、後者は気まずそうに顔をそむけた。
千葉隆弘は携帯を取り出し、写真を開いて小山千恵子に見せた。
「前回あなたを傷つけた暴漢たちは、懲らしめられて釈放されましたが、私の部下が数日間彼らを尾行していました」
「最近情報を得たんですが、彼らは帝都の地下組織『マムシ組』と親密な関係にあるようです。私たちは手がかりを追って、この人物にたどり着きました。彼は以前...桜井美月と接触していたことがあります」
小山千恵子は眉をひそめ、画面に映る五十代の中年男性を見つめた。
その男は背筋がピンと伸び、威厳のある顔立ちで、一挙手一投足に規律正しさが感じられた。
暴力団のような人物には見えなかった。
藤原晴子は思わずつぶやいた。「この人...以前軍隊にいたの?」
千葉隆弘は少し考えてから答えた。「彼は確かに桜井唯の部下でした」
小山千恵子は目を見開き、息を飲んだ。
桜井唯は桜井美月の実父で、かつて浅野武樹の父親である浅野遥の戦友だった。
浅野遥の話によると、当時子供がまだ生まれていない頃、桜井唯は彼と共に遠征に出たという。
桜井唯は浅野遥の命を救うために異郷で犠牲になった。浅野遥はこの任務から戻って以来、ずっと戦友の遺児を探し続けていた。
一年前、浅野遥はついに桜井美月を見つけ、浅野家の養女として迎え入れた。
小山千恵子が携帯をよく見ようとした時、千葉隆弘はそれを引っ込めた。
「もう遅いですから、休んでください。他に情報があれば、お知らせします」
藤原晴子も立ち上がり、帰ろうとした。