小山千恵子は目を見開き、思わず息を呑んだ。
「では、母が自殺したことをご存知だったのですね?他に何か情報は残していましたか?」
吉田芙蓉は手を振り、タバコに火をつけた。
「シシって呼んでいいわよ。当時も彼女は多くを語らなかったわ。ただ、子供がここにいれば、あちら側の人たちに見つからないはずだと言っていたわ」
千恵子はキーワードを捉えた。「あちら側の人たちとは?」
シシさんはタバコを一服し、手を広げた。
「私にも詳しくは話してくれなかったわ。知れば知るほど危険だって。止めようとしたけど、小山雫は頑固だったから、私の言うことなんて聞かなかったわ」
千恵子は失望を隠せない表情を見せた。母は部外者を巻き込むつもりはなかったようだ。
シシさんは灰を払い、ため息をついた。
「あなたも当時の真相が気になるの?ごめんなさい、私が知っているのはこれだけよ」
千恵子は首を振った。「大丈夫です。気にしないでください。母は他に何か残していませんでしたか?」
女性は眉をひそめて考え込んだ。
何か思い出したように、クローゼットの引き出しをしばらく探り、古びたノートを取り出した。
中の挟み層から一枚の紙切れを取り出し、千恵子に渡した。
「これ、見てみて」
千恵子は受け取った。手のひらの半分ほどの大きさの紙切れだった。
写真の一部のようだった。
なぜか、一片の破片だけが残っていた。
写真には男性の骨ばった手が写っており、その大きな手が女性の妊婦のお腹に添えられていた。
男性の手には指輪がはめられており、その上には複雑で独特な紋章が刻まれていた。
千恵子は女性のドレスの柄を見て、眉をひそめた。
シシさんはタバコを消し、口を開いた。「間違いなければ、これはあなたの父と母の写真ね。この破片も、母親が当時うっかり残したものよ」
千恵子が顔を上げ、お礼を言おうとしたが、美しい女性に手で制止された。
「仕事の時間よ。見送らないわ。用があったらまた来て」
千恵子は写真の破片を財布の間に大切にしまい、部屋を出た。
この指輪と紋章があれば、まだ見つかっていない手がかりを見つけられる予感がした。
帝都の夜、街灯が灯り始めた。
大和帝国が最も賑わう時間帯で、廊下には帝都の名の知れた大物実業家たちが行き交っていた。