第24章 これはあなたの父親のはず

小山千恵子は目を見開き、思わず息を呑んだ。

「では、母が自殺したことをご存知だったのですね?他に何か情報は残していましたか?」

吉田芙蓉は手を振り、タバコに火をつけた。

「シシって呼んでいいわよ。当時も彼女は多くを語らなかったわ。ただ、子供がここにいれば、あちら側の人たちに見つからないはずだと言っていたわ」

千恵子はキーワードを捉えた。「あちら側の人たちとは?」

シシさんはタバコを一服し、手を広げた。

「私にも詳しくは話してくれなかったわ。知れば知るほど危険だって。止めようとしたけど、小山雫は頑固だったから、私の言うことなんて聞かなかったわ」

千恵子は失望を隠せない表情を見せた。母は部外者を巻き込むつもりはなかったようだ。

シシさんは灰を払い、ため息をついた。

「あなたも当時の真相が気になるの?ごめんなさい、私が知っているのはこれだけよ」

千恵子は首を振った。「大丈夫です。気にしないでください。母は他に何か残していませんでしたか?」

女性は眉をひそめて考え込んだ。

何か思い出したように、クローゼットの引き出しをしばらく探り、古びたノートを取り出した。

中の挟み層から一枚の紙切れを取り出し、千恵子に渡した。

「これ、見てみて」

千恵子は受け取った。手のひらの半分ほどの大きさの紙切れだった。

写真の一部のようだった。

なぜか、一片の破片だけが残っていた。

写真には男性の骨ばった手が写っており、その大きな手が女性の妊婦のお腹に添えられていた。

男性の手には指輪がはめられており、その上には複雑で独特な紋章が刻まれていた。

千恵子は女性のドレスの柄を見て、眉をひそめた。

シシさんはタバコを消し、口を開いた。「間違いなければ、これはあなたの父と母の写真ね。この破片も、母親が当時うっかり残したものよ」

千恵子が顔を上げ、お礼を言おうとしたが、美しい女性に手で制止された。

「仕事の時間よ。見送らないわ。用があったらまた来て」

千恵子は写真の破片を財布の間に大切にしまい、部屋を出た。

この指輪と紋章があれば、まだ見つかっていない手がかりを見つけられる予感がした。

帝都の夜、街灯が灯り始めた。

大和帝国が最も賑わう時間帯で、廊下には帝都の名の知れた大物実業家たちが行き交っていた。