浅野武樹も尋ねる気にもならず、力強い手に青筋が浮き出て、肌の上を這うように火をつけていった。
小山千恵子は波に揺られる小舟のように、意識が徐々に朦朧としていった。
彼女が覚えているのは、最初から最後まで、浅野武樹の表情を見ることができなかったということだけだった。
彼女は泣きながら懇願したが、男は二度と彼女に触れなかった。
意識を失う前、彼女が覚えているのは、浅野武樹が彼女の目と手の拘束を解いたことだけだった。
男は嘲笑うような表情で、目は氷のように冷たく、黒い服装は冷酷な処刑人のようだった。
皮肉な言葉が、彼女の心に最後の一撃を与えた。
「金に困ったら俺のところに来い。同じように体で金を稼ぐなら、俺の方が高く払うぞ」
厚い札束が男によって上から見下ろすように、ベッドの上に散らされた。
冷たく汚らわしい紙幣が、小山千恵子の繊細で白い肌の上に覆い被さった。
鋭い紙の端が彼女の肌を痛く切り刻んだ。
小山千恵子は浅野武樹一人の玩具のような道化師となり、尊厳を完全に失っていた。
朝日が微かに差し込む中、浅野武樹はスーツに着替えて、そのまま中腹別荘を後にした。
寺田通が迎えに来て、浅野武樹の怒りの表情が収まっていないのを見て、息をするのも恐ろしかった。
昨日は大野武志の部下をあんな風に処分したが、今日もまだ多くの後処理が待っていた。
浅野社長は元々閻魔のような顔つきだったが、今は目の下にクマができ、表情は冷酷で、周りの者たちは皆、震え上がっていた。
「寺田、昨日小山千恵子が大和帝国にいた理由は何だ?」
運転中の寺田通は背筋が凍り、素早く答えを考えた。
大和帝国に着いた時、彼は夫人が何をしに来たのか尋ねていた。
フロントの答えは、シシさんと話があるとのことだった。
これを言えば、浅野社長が喜ぶとは思えなかった。
「あの、夫人はシシさんに会いに行ったんですが、その時は本名の吉田芙蓉を名乗っていました」
浅野武樹の瞳が一瞬揺らいだが、何も言わず、陰鬱な表情のまま後部座席の影に沈んでいた。
もう小山千恵子を簡単に信じる気にはなれなかった。
昨夜、小山千恵子が泣きながら、か細く震える声で懇願した時、彼は何度も制御を失いそうになった。
ビジネスの世界では、彼はいつも断固とした決断を下し、優柔不断なところは見せなかった。