第29章 録音は偽物

桜井美月は車椅子に座ったまま、雑誌のインタビューを受けていた。

彼女は白いドレスを着て、春の無害な小さな花のようだった。

浅野武樹は片手にウイスキーを持ち、隅に座って仕事をしていた。

目立たない場所にいても、無視できない威圧感を放っていた。

桜井美月の心は甘く溶けていた。

今日、岩崎さんはチャリティーパーティーに来ただけでなく、インタビューにも付き添ってくれた。

帝都のお嬢様たちが皆欲しがるような男性が、もうすぐ彼女のものになる。

寺田通は脇に立ち、多くの書類を持って、順番に浅野武樹に署名を求めていた。

周りの人々は小声で噂していた。

「浅野若様は桜井さんにとても優しいわね。小山千恵子と結婚していた時は、二人一緒の姿なんてめったに見なかったのに」

「お金持ちってそんなものよ。愛情があるときは何でもくれるけど、冷めたら一蹴するのよ」