第26章 旦那様、どこへ行くの

大野武志は心臓が飛び出すほど驚き、脂ぎった顔から冷や汗が噴き出した。

彼はずっと浅野武樹を眼中に入れていなかった。

彼、大野武志は南港を掌握しており、この若造の物流の八割は彼の関所を通らなければならなかった。

自分が半生をかけて築き上げた人脈が、そう簡単に奪われるはずがない!

部下が連行され、自分もしっかりと縛られるのを見て、大野武志は胸に不吉な予感が走った。

これだけ時間が経っているのに、自分の部下が現れないということは、おそらく既に制圧されているのだろう。

それに、この浅野武樹は噂に聞いていた軟弱な若造ではなかった。

この数発の拳で、彼の頭は朦朧としていた!

浅野武樹は彼と長々と時間を費やすつもりはなかった。彼の心は小山千恵子のことで一杯だった。

彼女は一人で、なぜここに来たのか?

先ほどの部屋にいた女も、おそらく大和帝国の人間だろう。彼女と小山千恵子はどういう関係なのか……

考えれば考えるほど混乱し、浅野武樹は今すぐにでも小山千恵子を捕まえて問い詰めたかった。

「大野社長、触れてはいけない人に手を出しましたね。」

浅野武樹は軽く言い放ち、大野武志の前にしゃがみ込んで、平淡な口調で話した。

「ぎゃあーー!」

次の瞬間、大野武志の悲鳴が個室から響き渡った。

浅野武樹のスプリングナイフが大野武志の掌に突き刺さり、彼の右手を床に釘付けにしていた。

「私は暴力で問題を解決するのは好きではありませんが、大野社長はお好きなようですね。」

浅野武樹は立ち上がり、大野武志の向かいの椅子に座った。

長い指で携帯を取り出し、数回タップして大野武志の前に置いた。

大野武志は一目見て、愕然とした。

「俺の港が……いつの間に!」

大野武志は自分の腹心の部下たちが、浅野武樹の配下と共に、自分の手下を大々的に一掃している様子を目の当たりにした。

港全体が、既に浅野武樹の手中に落ちていた。

大野武志は荒い息を吐き、目を血走らせた。

彼の一生の心血、帝都の本拠地が、このように覆されてしまうとは!

「このクソ野郎、調子に乗るな!俺の部下がお前に付いたように、いつか必ずお前を裏切る時が来る!」

浅野武樹は指を一本動かしただけで、大野武志の言葉を遮った。

「焦らないで、ゆっくり見てください。」