浅野武樹は小山千恵子を一瞬見つめ、凛々しい眉をかすかに上げた。
小山千恵子は無言で背筋を伸ばしたが、肩は微かに震えていた。
二人が対峙する中、周りのスタッフの囁き声が絶えず聞こえてきた。
「ミステリーゲストは桜井美月なの?本当に控えめね。今まで宣伝もしてないでしょ。」
「仕方ないわ、浅野家が推す人だもの、宣伝なんて必要ないのよ。」
「彼女も番組の目玉よね、最近小山千恵子とトレンド入りしたじゃない。」
小山千恵子は派手なことが好きではなく、それがデザイナーを職業に選んだ理由でもあった。
常に舞台裏に立ち、静かに好きなことをする。それが彼女の考える理想的な職業だった。
浅野武樹は黒の高級オーダーメイドスーツを着こなし、慣れた手つきで腕時計を外してスーツのポケットに入れた。
長い脚を伸ばし、車の前を回って助手席に向かい、ドアを開けた。
彼は手を伸ばし、全てのスタッフとボディーガードの接近を拒否し、助手席の桜井美月を安全に車椅子に抱き移した。
見慣れた優しさと気遣いが小山千恵子の目を刺すように痛めつけた。
彼女は立ち去りたかったが、足が地面に釘付けになったかのようだった。
心の中に失望はなく、ただいつもの空虚感があるだけだった。
浅野武樹は、彼女が『新入生』に参加する目的を知っていた。
また、暗がりで彼女の失態を待ち構えている幾多の目があることも知っていた。
小山千恵子は心の中で桜井美月に拍手を送らずにはいられなかった。
堂々と、人前で浅野武樹に纏わりつきながら、兄妹関係だと一言で片付けられる。
桜井美月は車から降りる前に、すでに片隅にいる藤原晴子に気付いていた。
特に、彼女の後ろの影に隠れている小山千恵子を。
桜井美月は必死に、上がりかけた口角と内なる興奮を抑えた。
最初は番組でちょっと威張るつもりだったが、まさか小山千恵子に出くわすとは思わなかった。
皆の注目の中、浅野家の御曹司に手のひらで大切にされ、優しく守られているのは、今や彼女であって、もはや小山千恵子ではない!
桜井美月と大勢の随行スタッフは、どやどやと臨海別荘に入っていき、かなりの物音を立てた。
彼女は少し頬を赤らめ、浅野武樹の袖を軽く引っ張った。
気品のある男は頭を下げ、耳に近づき、前髪が数本垂れ下がった。