第49章 浅野社長は度量が狭いな

渡辺昭は口元に笑みを浮かべ、軽やかに瞬きをした。「もちろん、芝居は徹底的にやらないとね」

小山千恵子は視線を逸らし、布地の束を抱えて歩き出しながら、低い声で警告した。「まだ承諾してないわ」

渡辺昭は急ぎ足で追いかけ、軽く身を屈めながら、桃色の瞳を細めた。

「申し訳ないけど、私が一番の大物だからね。誰とスキャンダルを起こすかは、私が決めることさ」

遠くから見ると、二人のやり取りは冗談を言い合っているように見えた。

スタッフに制止されているファンたちは呆然としていた。

「帽子をかぶってるあの女、誰？ファンがここまで追っかけてきたの？」

「ちょっと待って...あれは小山千恵子よ！」

「セレブぶってないで、私たちの渡辺スターに近づかないで！」

小山千恵子は熱い視線を感じ、居心地が悪くなった。

渡辺昭は去る気配もなく、まだ彼女の周りをうろついていた。

台車が空になったのを見て、千恵子は台車を返して立ち去ろうと思った。

トラブルの元になりそうな場所には、これ以上留まるべきではなかった。

渡辺昭のマネージャーの田中剛が近づいてきた。「渡辺さん、監督陣が待ってますよ。会う時間です」

渡辺昭はそれを聞いて反射的に頷いたが、すぐに気づいたように頭を上げ、威張った態度を取った。

「待たせておけ！私が忙しいのが見えないのか」

小山千恵子は心の中で嘲笑した。

事務所との契約解除を狙って、この渡辺スターは手段を選ばないようね。

スキャンダルを起こし、威張り散らし、今まで参加したことのないようなバラエティー番組まで出る。

小山千恵子の心には羨ましさも少しあった。

それは自分の運命を自分で掴むような自由な感覚だった。

田中剛は最近の渡辺昭の行動に頭を悩ませ、あちこちで尻拭いと謝罪に追われていた。

以前の渡辺昭と小山千恵子の噂の件では、多くの人脈とエネルギーを使った。

ここでまた頭痛の種となるコンビを目にして、田中剛はすでに腹が立っていた。

「渡辺さん、もう騒ぐのはやめてください！言ったでしょう、契約解除なんてできないって」

田中剛は怒鳴りながら、大きく手を振り、不注意で小山千恵子を押してしまった。

千恵子はよろめき、台車の上に膝をついた。

台車は滑り、ステージ下に向かって急速に動き出した！