第39章 お前の命は、私のものでもある

千葉隆弘のボディーガードが機を見て動き、数人のボディーガードを制圧した。

防衛線に隙が生まれ、小山千恵子は手を引かれて機内扉へと走った。

彼女は振り返り、絶望的な眼差しで浅野武樹を見つめた。

遠くで、黒髪に黒い瞳の男の目には怒りが満ちていて、激怒したライオンのようだった。

浅野武樹は目を赤く染め、小山千恵子の後ろ姿に激怒していた。

彼女をこのまま行かせるわけにはいかない!

「小山千恵子!お前が行けば、療養院は小山敏夫の治療を打ち切る!」

浅野武樹はこれまで、小山旦那様に少しでも害を与えようとは考えもしなかった。

この瞬間、小山千恵子よりも、彼の方が追い詰められているように見えた。

小山千恵子は急に足を止め、驚いて浅野武樹の方を振り返った。

見慣れた顔立ちと端正な容姿が、この瞬間はとても見知らぬものに感じられた。

浅野武樹は、他人以下だった。

「この畜生!何様のつもり!」藤原晴子が突然浅野武樹に向かって突進した。

ボディーガードが動く前に、寺田通が素早く藤原晴子を押さえつけた。

浅野武樹は小山千恵子の反応を見て、かなり満足げだった。

「言った通りにする」

千葉隆弘は奥歯を噛みしめた。

愛する女性も、敬愛する祖父も、どちらも守れない。

浅野武樹は悠然と半歩後ろに下がり、腕を組んで原地に立ち尽くす女性を見つめた。

「さあ、小山千恵子、大人しく戻って中腹別荘にいろ。小山敏夫の療養費は私が払い続ける」

藤原晴子と千葉隆弘と離れることを承諾した時、小山千恵子は浅野武樹が祖父を傷つけることはないと確信していた。

小山旦那様は浅野武樹の恩人であり、幼い頃からの啓蒙の師でもあった。

浅野武樹を理解している彼女からすれば、どんなことがあっても、祖父を傷つけることはないはずだった。

しかし今の彼女には浅野武樹が理解できなくなっていた。

彼は完全な狂人だった!

小山千恵子は千葉隆弘の手を振り払い、か細い体を風にさらしながら、黒いスーツ姿の男の元へゆっくりと歩み寄った。

「ごめんなさい、隆弘」

彼女に選択肢はなかった。

祖父だけが、彼女の最大の弱みだった。

かつて、彼女は浅野武樹を神のような存在だと思い、人生を照らしてくれる光だと感じていた。

この瞬間、浅野武樹は死神のように思え、彼女を一歩一歩地獄へと導いていくように感じた。