小山千恵子と渡辺昭は監督のオフィスを出た。
彼女の心は久しぶりに少し軽くなった。
桜井美月が番組スタッフの中にいるのを見た瞬間、浅野武樹が番組に投資したことは間違いないと分かった。
しかし幸いなことに、白石監督は完全に買収されてはいなかった。まだチャンスはある。
それに、デザイン勝負なら誰にも負けるはずがない。
二人は小山千恵子の狭い住まいまで歩いて帰った。
渡辺昭はため息をつき、嫌そうな顔をした。
「こんなボロ屋、やっぱり引っ越さないとな」
ずっと我慢していた千恵子は、躊躇した末にようやく口を開いた。
「人から頼まれたって言ってたけど...千葉隆弘のことでしょう」
渡辺昭は笑い声を上げ、大げさに「あーやばい」と言った。
「あいつが知ったら、俺のことぶん殴りに来るぞ」
明らかにわざと漏らしたのだと千恵子は思った。