小山千恵子は無意識に指を絡ませながら、物思いに耽っていた。
撮影現場で、自分が気づかなかった人がまだいるのだろうか……
背後から声が聞こえた。「もう考えなくていい。写真を流したのは俺だ」
渡辺昭が勝手に入ってきて、椅子を引いて座った。
藤原晴子はほっと息をついた。「渡辺スター、早く言ってくれればよかったのに」
男は後ろにもたれかかり、長い脚を伸ばして、まったく気にしていない様子で言った。「千恵子に挨拶しようと思ったんだけど、朝早くから見つからなくてね」
小山千恵子は口を尖らせた。
確かに彼女は朝早くからカフェに来てデザインを描いていた。渡辺昭は彼女の部屋を訪ねても空振りだったのだろう。
「じゃあ……」
渡辺昭はスマートフォンを取り出し、小山千恵子の方に体を傾けて、笑顔で言った。「LINEを交換しない?」