桜井美月の収録がまもなく始まる。
浅野武樹は彼女を楽屋に送り届けた後、会社に戻った。
浅野武樹がいなくなり、桜井美月はほっと息をついた。
もう演技も我慢も必要なく、好きなように態度を取れるようになった。
桜井美月は熊谷玲子の助けを借りて、華やかな衣装に着替えた。
車椅子に座り、冷たい表情で後ろの熊谷玲子に指示を出した。
「全部準備できた?」
熊谷玲子はドレスの胸元を見下ろし、何度も確認してから口を開いた。
「問題ありません」
桜井美月は悪意のこもった笑みを浮かべた。
やはり、世界中が小山千恵子を信じなければ、自分がどんな中傷を浴びせても構わないのだ。
桜井美月は冷たく笑い、楽に後ろに寄りかかった。
この世界はそれほど残酷なのだ。
彼女はとっくにそれを知っていた。
スタッフが熊谷玲子を呼び出し、彼女は先にステージに上がって収録を始めた。
桜井美月は落ち着いて座り、何気なくスカートの裾をいじっていた。
突然、柔らかい手が彼女の肩を押さえた。
「桜井さん」
桜井美月は少し慌てて顔を上げ、見下ろしてくる小山千恵子を見た。
周りを見回すと、ボディーガードの姿が見当たらない!
「何をするの!」
桜井美月は何故か後ろめたさを感じた。
小山千恵子は軽く笑い、桜井美月の肩を軽くたたいた。
なだめるような動作に警告の意味が込められていた。
「桜井さん、あなたの考えは顔に出ていますよ」
桜井美月は動けず、歯を食いしばって言った。「それで?」
小山千恵子は片手を桜井美月の胸元に滑らせた。
素早く3本の細い裁縫針を取り出し、彼女の目の前でちらつかせた。
「ただ警告したいだけです。私に対抗するのは構いませんが、こんな低レベルな手は使わないでください」
桜井美月は顔を赤らめた。
針を取ろうと手を伸ばしたが、小山千恵子はそれを高く上げ、しまい込んでしまった。
「浅野武樹の気を引きたいなら、彼が最も嫌うのがこういう手段だということを知っておくべきですよ」
桜井美月は怒りを覚え、表情を抑えながら低い声で叫んだ。
「私が何をしても、お兄さんは私の味方で、私の苦しみを理解してくれるわ!」
小山千恵子は声を立てて笑ったが、目には冷たさが宿っていた。