第54章 こんな下手な手を使うな

桜井美月の収録がまもなく始まる。

浅野武樹は彼女を楽屋に送り届けた後、会社に戻った。

浅野武樹がいなくなり、桜井美月はほっと息をついた。

もう演技も我慢も必要なく、好きなように態度を取れるようになった。

桜井美月は熊谷玲子の助けを借りて、華やかな衣装に着替えた。

車椅子に座り、冷たい表情で後ろの熊谷玲子に指示を出した。

「全部準備できた?」

熊谷玲子はドレスの胸元を見下ろし、何度も確認してから口を開いた。

「問題ありません」

桜井美月は悪意のこもった笑みを浮かべた。

やはり、世界中が小山千恵子を信じなければ、自分がどんな中傷を浴びせても構わないのだ。

桜井美月は冷たく笑い、楽に後ろに寄りかかった。

この世界はそれほど残酷なのだ。

彼女はとっくにそれを知っていた。

スタッフが熊谷玲子を呼び出し、彼女は先にステージに上がって収録を始めた。