小山千恵子は撮影現場に到着したとき、すでに息を切らしていた。
白血病と診断されてから、彼女は非常に疲れやすくなり、体力も大幅に低下していた。
小山千恵子の細い首筋には細かい汗粒が浮かび、数本の髪の毛が絡みついていた。
「どうしたの?」
渡辺昭はレーシングスーツの上着を半分脱ぎ、どうしようもなく困った様子だった。
「上着が、断熱服と縫い付けられてしまったんです。」
小山千恵子は驚いて小さく「あっ」と声を上げた。
「申し訳ありません、すぐに直します。」
浅野武樹が到着したとき、小山千恵子は渡辺昭の横で片膝をついていた。
彼女の右腕の袖には数本の針と糸が留められており、手慣れた様子で素早く問題に対処していた。
その柔らかな手が、時折渡辺昭の腰や脚に触れていた。
浅野武樹の漆黒の瞳から火が噴き出しそうだった。