小山千恵子は表情を変えずに、目の奥に冷たさを宿していた。
「白石監督、私が率直にお話しするのは、それなりの切り札があるからです。番組制作側の不正競争や、公平性を欠く審査制度についてのニュースが流出するのは、誰も望まないでしょう」
小山千恵子は携帯を取り出し、写真を探して白石監督に見せた。
「私は誰が妨害しているのか知っているだけでなく、証拠も持っています。相手も私が事を大きくしたくないと見込んで、こんなに露骨な行動に出たのでしょう」
白石監督の表情が和らぎ、咳払いをして口を開いた。
「確かに審査規定ではデザイン変更は禁止されていませんが、生地の手配にはそれなりに時間がかかります。それに裁断の時間も必要です。はっきり言って、収録に間に合わなければ、即刻退場してもらいます」
小山千恵子の目は強さと優しさを取り戻し、握りしめていた拳も緩んだ。
「分かりました。ですから、ご覧ください」彼女はデザイン画の後ろにある生地の要件を指さして、「これらの生地と材料は全て番組制作側の在庫にあると確信しています」
番組制作側に来た初日から、彼女は予定されていた生地のほとんどの運搬を担当していた。
とても疲れたけれど、今となっては天が味方してくれていたのかもしれない。
小山千恵子はデザインと縫製に自信があったものの、生地の質感がもたらす違いは埋めがたいものだった。
白石監督はデザイン画を何度も見返し、渋い顔をしながらも承諾した。
「いいでしょう。必要な材料は許可します。倉庫で自分で探してください」
小山千恵子は笑みを浮かべ、目を輝かせた。
「ありがとうございます、白石監督」
小山千恵子は予備の白い生地を手に入れ、デザインスペースに戻った。
多くのデザイナーたちは既に原型を作り上げていた。
一方、彼女の作業台は何も手をつけていない状態だった。
小山千恵子は焦ることなく、大胆にパターンを裁断し、進度を追いかけているふりをした。
頭の中では、本当のデザイン画をどのように制作するか構想を練っていた。
番組制作側は元々撮影スケジュールがタイトで、プレッシャーが大きかった。
多くのデザイナーは規定時間内に衣装を完成させることができないほどだった。
まして小山千恵子は番組基準を満たす作品を二着も制作しなければならなかった。