浅野武樹は彼女を抱き上げ、大股で病院を出た。
「寺田、車を。」
小山千恵子は揺れに気分が悪くなった。
まぶたを開けると、夢ではないことに気づいた。
彼女を抱いているのは浅野武樹で、表情は緊張していた。
彼女は心臓がドキドキした。
浅野武樹がなぜここに?
もしかして、彼女の病気のことを知ったのか……
「降ろして……」
浅野武樹の瞳の色が深くなり、千恵子の抵抗を無視して、両腕でさらに強く抱きしめた。
小山千恵子は胃の中がかき回されるようで、口を押さえ、全身の力を振り絞って浅野武樹の胸を殴った。
「咳、早く降ろして、吐きそう……!」
浅野武樹は反射的に足を止め、そっと千恵子を降ろした。
小山千恵子は入口のゴミ箱を見つけ、何度か空嘔吐をしたが何も出なかった。
生理的な涙を目尻に浮かべながら、浅野武樹が差し出したハンカチを受け取った。