桜井美月は心の中で慌て始めた。
小山千恵子の失態を見るために、桜井美月はわざわざ浅野武樹を現場収録に呼んだのだ。
小山千恵子はまるでゴキブリのように、彼女の前で目障りな存在だった!
熊谷玲子も手に汗をかき始めた。
今日まで、彼女は完成した衣装を絶えず修正し続けていた。
小山千恵子のような特殊な裁断デザインは、並外れた技術が要求される。
熊谷玲子は当時、センスで確かに一時的に注目を集めた。
しかし、基本と技術の追求を軽視したため、徐々に独創性を失い、最終的にセンスも消えてしまった。
この作品だけでは、小山千恵子に勝てるかどうか、本当に確信が持てなかった。
午後7時30分、収録開始。
浅野武樹も接待を断り、時間通りに臨海別荘に到着した。
男は警備員とアシスタントに囲まれながら入場し、監督チームの後ろに座った。
静かで控えめながら、圧倒的な存在感を放っていた。
第一ラウンドの競技は、テーマ自由で、主にデザインの基礎力とインスピレーションの巧みさを試すものだった。
桜井美月と熊谷玲子は先機を制するため、先に収録することを選んだ。
小山千恵子のメンズウェアデザインを修正して作られた女性服は、凛とした雰囲気を醸し出していた。
テーマも小山千恵子のデザインコンセプトである「力」を踏襲していた。
桜井美月は全体的に柔らかく可憐な印象で、硬い線のスーツドレスを着ていた。
平凡で、むしろ違和感があった。
熊谷玲子は紹介を終えて下がり、会場のライトは全て桜井美月に当てられた。
珍しく髪を束ね、車椅子の足置きに乗せた両足は、靴を履いていなかった。
桜井美月は可哀想そうな表情で、目に涙を浮かべていた。
「熊谷玲子さんはいつも、私に力を貸して立ち上がらせたいと言っています。私は彼女に約束しました。この衣装が完成したら、立ち上がって、皆さんに彼女の作品を見せると」
桜井美月は頭を下げ、素足で冷たいステージを踏んだ。
脇にいたアシスタントと警備員も驚いて、ステージに上がろうとした。
桜井美月は深く息を吸い、手を上げて制止した。
「大丈夫です!」
浅野武樹も胸が高鳴った。
彼は知っていた。桜井美月が常に高強度のリハビリトレーニングを続けていることを。
毎回汗を流すほど痛みに耐えながらも、いつも笑顔で大丈夫だと言っていた。