第65章 もう一度千恵子に会いたい

浅野武樹は長い脚を組んで、冷静に椅子に座っていた。

収録現場の騒動を冷ややかに見つめ、まるで他人事のような様子だった。

彼は昔の負けず嫌いな小山千恵子を思い出していた。

頑固で、強情だった。

自分が手を差し伸べると、すぐに拗ねてしまう。

そんな思考は、隣からの弱々しい声で中断された。

「白石監督、二つの作品を出すことは可能なんでしょうか?今までのルールではそんな話は聞いたことがないのですが」

桜井美月は隣に落ち着いて座っている白石監督に向かって、か細い声で質問した。

白石監督は眼鏡を押し上げ、ステージから目を離さずに答えた。

「本来なら、番組の予定時間では一着の衣装制作しかできません。ただし、デザイナーに余力があれば、より多くの優れた作品を見せていただくことは歓迎します」

桜井美月は頷いて、それ以上何も言わなかった。

スカートの下で手を強く握りしめた。

監督のこの発言は、明らかに小山千恵子に味方しているものだった。

なぜ!

浅野家がこれだけのスポンサー料を出し、番組名までつけているのに。

結局、白石監督は恩を仇で返す人間だったということか!

桜井美月は浅野武樹の隣に座っていたが、周りから敵意のある視線を感じていた。

熊谷玲子はステージを降りてから、行方が分からなくなっていた。

周りの人々は声を潜めて噂し合っていたが、桜井美月の耳には雷鳴のように響いていた。

「結局、誰が誰の真似をしたんだろう?」

「分からないけど、小山千恵子の技術は明らかに熊谷玲子より遥かに上だよね。わざわざ真似する必要なんてないでしょ」

「それは番組側の判断次第だね。後から提出した方が盗作ってことになるんじゃない?」

桜井美月の顔色が赤くなったり青ざめたりした。

番組がテーマを発表した初日に、小山千恵子はデザインを提出していた。

熊谷玲子は締切最終日になってようやく提出した。

もしこの事実が明らかになれば、この数日間の努力が全て無駄になってしまう!

しかも渡辺昭がこの衣装を着て登場した途端、誰かが機密保持契約を無視して、ロケ写真をネットに流出させた。

このスタイリングは너무衝撃的で、渡辺昭の従来のイメージを覆すものだった。

世論は沸き立ち、すぐにリアルタイムトレンド1位になった。