第63章 私は共倒れも厭わない

小山千恵子は、この行政スイートに引っ越してきて以来、ずっと心が落ち着かなかった。

桜井美月は入り口に座り、見物人のような様子だった。

「これがあなたが私に挑発した結果よ」

小山千恵子は気を取り直し、ドレスを置いて、ゆっくりと立ち上がった。

涙の跡も乾かないまま、彼女は口角に笑みを浮かべ、桜井美月を見下ろすように見た。

「桜井美月、これがあなたのやり方?昨夜、壁に耳を当てて、焦っていたの?」

桜井美月は体を震わせ、表情が歪んだ。

どうして昨夜自分がドアの外にいたことを知っているの!

桜井美月は恥ずかしさと怒りで、車椅子の肘掛けを強く掴んだ。

「小山千恵子!あなた、恥知らずね!岩崎さんのスイートに引っ越すだけでなく、誘惑までして。離婚したいって言ってたじゃない?男がいないと生きていけないの?」

小山千恵子は無意味な口論を避けたかった。

先ほどの衝動的な行動で血の気が上り、今は少しめまいがして、ただゆっくり休みたかった。

小山千恵子の顔色が悪く、立っているのもやっとなのを見て、桜井美月は芝居がかった声で「あら」と言った。

「そうそう、あなたもう死にそうだったわね」

小山千恵子は珍しく顔を曇らせ、冷たい声で脅した。

「だから出て行って。私は道連れになることも厭わないわ」

彼女は人を脅すことは少なかった。

しかし今は本当に疲れていた。

桜井美月と熊谷玲子は小山千恵子の目に宿る絶望と冷たさに驚き、急いでスイートを出て行った。

収録まで、あと24時間しかない。

小山千恵子は閉まったドアを見つめ、壁に寄りかかったまま力なく滑り落ちた。

床に座り込み、目の前は散らかり放題だった。

これまで、彼女は自分に言い聞かせてきた。

強くあれ、諦めるな、と。

桜井美月に追い詰められても、いつも冷静さを取り戻し、対策を考えることができた。

しかし彼女の心は、この床に散らばった破れたドレスのように。

強がっているだけだった。

小山千恵子の目には迷いが満ち、一瞬、自分が何のために頑張っているのか分からなくなった。

夜が迫る中、小山千恵子は初めて浅野武樹が派遣したボディーガードに話しかけた。

「お手数ですが、療養院まで送っていただけますか」

祖父に会いたかった。