浅野武樹は久しぶりにこんなに良い眠りについた。
本来なら終わったら、小山千恵子を主寝室に連れて行くつもりだった。
しかし、彼の腕の中で子供のように疲れて眠る女性を見ていると。
指一本動かす気にもなれなかった。
小山千恵子の目の下には隈があり、目尻は赤く染まっていた。
彼はそれほど何もしていないのに、どうしてこんなにひどく虐められたような様子なのだろう。
見ているうちに、いつの間にか浅野武樹も深い眠りに落ちていった。
朝早く鳥のさえずりで目が覚めると、珍しく空はすでに明るくなっていた。
浅野武樹は眉間をこすり、腕の中が空っぽになっていることに気付いた。
振り向くと、小山千恵子はすでにマネキンの前で作業を始めていた。
集中している様子で、顔に布の切れ端が付いているのにも気付いていない。
久しぶりに、小山千恵子が傍らで静かに作業をする様子を眺めていた。
浅野武樹は中腹別荘の書斎を思い出した。
表情も穏やかなものから、次第に冷たいものへと変わっていった。
今や、小山千恵子は以前のような存在ではない。
彼にとっては単なる欲望を発散させるための玩具に過ぎない。
玩具に感情を注ぎ込むべきではないし、意味を持たせるべきでもない。
浅野武樹は体を起こし、腕を見下ろすと、黒い髪の毛が散らばっているのに気付いた。
小山千恵子は物音を聞いて顔を上げた。
浅野武樹が数本の髪の毛を手に取って見入っているのを見て、胸が締め付けられた。
しまった、こっそり起きて作業を急ぐことばかり考えて、髪の毛を片付けるのを忘れていた。
三回の化学療法で、髪の毛が抜けるのは明らかだった。
浅野武樹が顔を上げると、小山千恵子の澄んだ目と合った。
男は手の中の髪の毛を見せ、説明を求めるような様子だった。
小山千恵子は視線を逸らし、さも何気なく口を開いた。
「疲れすぎて、抜け毛が多くなったの。だから短く切ったの。」
浅野武樹もそれほど気にしていない様子で、腕で体を支えてベッドから起き上がった。
適当に服を着て、小山千恵子の部屋を出て行った。
小山千恵子は人が遠ざかるのを待って、避妊薬を取り出し、そのまま飲み込んだ。
喉の苦みと腰と膝の痛みをこらえながら、裁断と縫製の作業を続けた。
思いがけず一晩を無駄にしてしまい、時間が非常に逼迫していた。