第62章 作品は桜井美月の手によって破壊された

浅野武樹は久しぶりにこんなに良い眠りについた。

本来なら終わったら、小山千恵子を主寝室に連れて行くつもりだった。

しかし、彼の腕の中で子供のように疲れて眠る女性を見ていると。

指一本動かす気にもなれなかった。

小山千恵子の目の下には隈があり、目尻は赤く染まっていた。

彼はそれほど何もしていないのに、どうしてこんなにひどく虐められたような様子なのだろう。

見ているうちに、いつの間にか浅野武樹も深い眠りに落ちていった。

朝早く鳥のさえずりで目が覚めると、珍しく空はすでに明るくなっていた。

浅野武樹は眉間をこすり、腕の中が空っぽになっていることに気付いた。

振り向くと、小山千恵子はすでにマネキンの前で作業を始めていた。

集中している様子で、顔に布の切れ端が付いているのにも気付いていない。

久しぶりに、小山千恵子が傍らで静かに作業をする様子を眺めていた。

浅野武樹は中腹別荘の書斎を思い出した。

表情も穏やかなものから、次第に冷たいものへと変わっていった。

今や、小山千恵子は以前のような存在ではない。

彼にとっては単なる欲望を発散させるための玩具に過ぎない。

玩具に感情を注ぎ込むべきではないし、意味を持たせるべきでもない。

浅野武樹は体を起こし、腕を見下ろすと、黒い髪の毛が散らばっているのに気付いた。

小山千恵子は物音を聞いて顔を上げた。

浅野武樹が数本の髪の毛を手に取って見入っているのを見て、胸が締め付けられた。

しまった、こっそり起きて作業を急ぐことばかり考えて、髪の毛を片付けるのを忘れていた。

三回の化学療法で、髪の毛が抜けるのは明らかだった。

浅野武樹が顔を上げると、小山千恵子の澄んだ目と合った。

男は手の中の髪の毛を見せ、説明を求めるような様子だった。

小山千恵子は視線を逸らし、さも何気なく口を開いた。

「疲れすぎて、抜け毛が多くなったの。だから短く切ったの。」

浅野武樹もそれほど気にしていない様子で、腕で体を支えてベッドから起き上がった。

適当に服を着て、小山千恵子の部屋を出て行った。

小山千恵子は人が遠ざかるのを待って、避妊薬を取り出し、そのまま飲み込んだ。

喉の苦みと腰と膝の痛みをこらえながら、裁断と縫製の作業を続けた。

思いがけず一晩を無駄にしてしまい、時間が非常に逼迫していた。