第61章 お前はやはり私を拒めない

「どうしてここに来たの?」

浅野武樹は不機嫌そうに問い返し、ネクタイを緩めながら、小山千恵子に一歩一歩近づいていった。

「ここは私のスイートルームだ」

一日中疲れ果て、怒りが胸に溜まっていた。

目の前の女を見た瞬間、その全てが暴虐な欲望へと変わった。

まるで潮のように激しく押し寄せてきた。

小山千恵子は後ずさりを続け、冷たい壁に背中が当たった。

慌てて、電気のスイッチに触れてしまった。

部屋は暗くなり、書斎の暖かい黄色の小さなスタンドだけが残った。

室温が数度上がったかのように、部屋中が甘い雰囲気に包まれた。

浅野武樹は腕時計を外し、適当に脇に投げ捨てた。

そして小山千恵子の帽子を取った。

頭が涼しくなり、小山千恵子は思わず髪に手を伸ばした。

浅野武樹の熱を帯びた指が、小山千恵子の痩せた頬を滑り落ちていった。