「どうしてここに来たの?」
浅野武樹は不機嫌そうに問い返し、ネクタイを緩めながら、小山千恵子に一歩一歩近づいていった。
「ここは私のスイートルームだ」
一日中疲れ果て、怒りが胸に溜まっていた。
目の前の女を見た瞬間、その全てが暴虐な欲望へと変わった。
まるで潮のように激しく押し寄せてきた。
小山千恵子は後ずさりを続け、冷たい壁に背中が当たった。
慌てて、電気のスイッチに触れてしまった。
部屋は暗くなり、書斎の暖かい黄色の小さなスタンドだけが残った。
室温が数度上がったかのように、部屋中が甘い雰囲気に包まれた。
浅野武樹は腕時計を外し、適当に脇に投げ捨てた。
そして小山千恵子の帽子を取った。
頭が涼しくなり、小山千恵子は思わず髪に手を伸ばした。
浅野武樹の熱を帯びた指が、小山千恵子の痩せた頬を滑り落ちていった。