第61章 お前はやはり私を拒めない

「どうしてここに来たの?」

浅野武樹は不機嫌そうに問い返し、ネクタイを緩めながら、小山千恵子に一歩一歩近づいていった。

「ここは私のスイートルームだ」

一日中疲れ果て、怒りが胸に溜まっていた。

目の前の女を見た瞬間、その全てが暴虐な欲望へと変わった。

まるで潮のように激しく押し寄せてきた。

小山千恵子は後ずさりを続け、冷たい壁に背中が当たった。

慌てて、電気のスイッチに触れてしまった。

部屋は暗くなり、書斎の暖かい黄色の小さなスタンドだけが残った。

室温が数度上がったかのように、部屋中が甘い雰囲気に包まれた。

浅野武樹は腕時計を外し、適当に脇に投げ捨てた。

そして小山千恵子の帽子を取った。

頭が涼しくなり、小山千恵子は思わず髪に手を伸ばした。

浅野武樹の熱を帯びた指が、小山千恵子の痩せた頬を滑り落ちていった。

鋭く繊細な鎖骨まで辿り着いた。

男の喉仏が動いた。「最近痩せたな」

小山千恵子の心が揺れ、目を伏せた。

震える手で浅野武樹の手を払いのけ、彼を見上げた。

「浅野社長、話があるなら直接おっしゃってください」

浅野武樹は空中で手を止め、しばらくしてから引っ込めた。

背筋を伸ばし、腕を組んで、鷹のような目つきで目の前の女を見つめた。

「第一病院で何の治療を受けていた?」

小山千恵子は視線を逸らし、歯を食いしばった。

言い訳は考えていたものの、口に出すのが嫌だった。

浅野武樹の目の中の温もりが一気に冷え、指が苛立たしげに腕を叩いた。

「私の忍耐にも限界がある」

目を閉じ、小山千恵子は仕方なく口を開いた。声は乾いていた。

「中絶後の回復です。そうしないと...妊娠に影響が」

浅野武樹の表情が和らぎ、唇に意味深な笑みが浮かんだ。

「言っただろう。嘘をつくときは、私にはわかると」

小山千恵子は浅野武樹の「尋問方法」を思い出し、表情は平静を装ったが、心臓は激しく鼓動していた。

優しくも強引な浅野武樹を拒むことはできなかった。

かつて、彼が彼女を愛していた頃のように。

小山千恵子は爪を掌に食い込ませ、その痛みで少し頭が冴えた。

彼女は浅野武樹の鉄壁のような胸を押した。

「作品の締め切りがあるので、用事がないなら早めに休んでください」

浅野武樹はもちろん帰るつもりはなかった。