浅野武樹は心臓の鼓動が一瞬加速し、血が脳に上って、すぐに冷静さを取り戻した。
その証拠は完璧で確実なものだったのに、どうして小山雫が犯人ではないと言えるのか!
浅野遥は長い間考えた末、それ以上は話を続けず、むしろ話題を変えた。
「お前と千恵子の離婚には反対しない。当時の真相について、信じられないなら自分で調べるといい」
浅野遥は視線を逸らした。
当時の出来事の真相は、多くの人々と事柄に関わっており、触れないでおくことが、全ての人にとって最善の保護となる。
しかも彼は以前、ある人と約束していた。やむを得ない場合を除いて、過去の出来事は決して蒸し返してはならないと。
浅野武樹は、浅野遥がもう口を開くつもりがない様子を見て、心の中で怒りが沸き立った。
一体どんな過去の真相が、最も身近な家族にさえ知らせることができないほどのものなのか!
小山雫が犯人ではないという一言で彼を追い払おうとするなんて、考えが甘すぎる。
浅野武樹は深呼吸をして、胸の中で渦巻く複雑な感情を落ち着かせた。
母の死について、必ず徹底的に調べ上げるつもりだ。
湖畔クリニック。
小山千恵子は数日間の治療と休養を経て、すでに体力も回復し、普通の生活を送れるようになっていた。
離婚は成立し、もう中腹別荘には戻れないため、そのまま湖畔クリニックに滞在することにした。
小山千恵子は今日、シシさんに会いに行くつもりだった。
以前は浅野武樹に厳しく監視されていたため、多くの調査活動が不便だったので、私立探偵との連絡をシシさんに任せていた。
なぜか、彼女は母のこの旧友に対して親近感を覚えていた。
しかも前回ナイトクラブ「月光」での危機の際も、シシさんが身を挺して助けてくれた。
小山千恵子は人付き合いは多くないが、自分の人を見る目には自信があった。
化学療法はすでに一段階進んでおり、小山千恵子の髪の毛は目立つほど薄くなっていた。
藤原晴子は何気ない様子で、着替えを持ってくると称して。
大きなバッグを開けると、中にはいくつかのウィッグが丁寧に収められていた。
小山千恵子は心が温かくなった。このような時でも、親友の藤原晴子は彼女の自尊心と感情に気を配ってくれていた。
小山千恵子はウィッグを被り、帽子をかぶって約束の場所に向かうと、シシさんがすでにそこでコーヒーを飲んでいた。