小山千恵子はバッグからティッシュを取り出し、顔を拭いた。
「私は招待状を持っているから入れたのよ。ご存知の通り、私は黒川奥様のドレスのデザイナーなのに、どうして花を届ける人のふりをして入る必要があるのかしら」
横山絹子は一瞬言葉を失い、顔を赤らめながら、尖った声で強情を張り続けた。
「あなたの招待状が偽物じゃないって、誰が保証するの……」
耳障りな声は、入口から来た人によって遮られた。
「小山お嬢さん!お待ちください」
入口の受付係は息を切らしながら走ってきた。
先ほど入口で、千恵子は花車を支えた後、すぐに中に入り込んで姿を消した。
彼は大きく一周して探し回り、ようやくデザイン事務所の入口で彼女の姿を見つけた。
近づいて見ると、驚いた。
「小山お嬢さん!どうして濡れているんですか?!」
横山絹子は受付係が来るのを見て、すぐに腰に手を当てて指示を出した。
「この人は招待客リストにないわ。入口でどんなチェックをしているの!どんな怪しい人でも中に入れるの?黒川奥様が知ったら大変よ!早く追い出しなさい!」
受付係は慌てた表情で、タオルを持ってきて千恵子に渡しながら、おずおずと答えた。
「横山設計士、小山お嬢さんは確かに招待状をお持ちです。しかも黒川奥様から直接いただいたブラックゴールドの招待状です。リストにないのは当然のことで……」
横山絹子の頭の中で轟音が鳴り響いた。
なんと千恵子は本当に黒川奥様から直接招待されていたのだ!
千恵子はタオルで髪と襟元を軽く拭いた。
横山絹子のお茶は並々ならぬものだった。濃い熟成プーアル茶で、白いタオルまで木の色に染まってしまった。
幸い、ほとんどが黒いコートにかかったが、チャイナドレスはもう台無しだろう。
千恵子が本当に黒川奥様に招待されたと聞いて、若いアシスタントやデザイナーたちが一斉に集まり、デザインに関する質問を投げかけた。
「小山お嬢さん、この刺繍はどうやって作ったんですか!技法が素晴らしいです!」
「月白緞子は糸引きしやすいのに、この角はどうやって処理したんですか?こんなにきれいに!」
「琉璃は繊細ですが、後のメンテナンスはどうすればいいですか?」
千恵子も気取らず、一つ一つ答えていった。
部屋は一時賑やかになり、横山絹子は傍らに立ち、まるで馬鹿のようだった。