第88章 知らない方がいいこともある

小山千恵子はバッグからティッシュを取り出し、顔を拭いた。

「私は招待状を持っているから入れたのよ。ご存知の通り、私は黒川奥様のドレスのデザイナーなのに、どうして花を届ける人のふりをして入る必要があるのかしら」

横山絹子は一瞬言葉を失い、顔を赤らめながら、尖った声で強情を張り続けた。

「あなたの招待状が偽物じゃないって、誰が保証するの……」

耳障りな声は、入口から来た人によって遮られた。

「小山お嬢さん!お待ちください」

入口の受付係は息を切らしながら走ってきた。

先ほど入口で、千恵子は花車を支えた後、すぐに中に入り込んで姿を消した。

彼は大きく一周して探し回り、ようやくデザイン事務所の入口で彼女の姿を見つけた。

近づいて見ると、驚いた。

「小山お嬢さん!どうして濡れているんですか?!」