一瞬にしてレストランの雰囲気は凍りついた。
黒川啓太は主席に座り、黒川家の絶対的な主導者であり上位者だった。彼の感情は部屋全体の雰囲気を左右しているようだった。
黒川啓太は剣のような眉を少し寄せ、目には複雑な感情が渦巻いていたが、すぐに平静を取り戻した。
「よし、その後の状況を報告してくれ。他のことは、今は言わなくていい」
電話を切ると、黒川啓太は目を伏せて目の前のスープを飲み、何事もなかったかのように振る舞った。
しかし黒川芽衣の心には変化が生じ始めていた。
彼女はあのペンダントが何のためのものか、よく分かっていたのだ!
当時そのペンダントを持っていた人は一人だけ、それは小山雫だった!
黒川芽衣の目には隠しきれない憎しみと険悪さが閃いた。
小山雫はとっくに病死したはずなのに!どうして当時の事を、まだ誰かが調べているのか。
食事は味気なく終わり、黒川芽衣は桜井美月を連れて部屋に戻った。
門を閉めると、黒川芽衣は桜井美月を掴んで部屋の中に引きずり込んだ。
桜井美月は肩を痛く掴まれ「離して!」と叫んだ。
黒川芽衣はバタンと扉を閉め、毒々しい目で桜井美月を見つめ、声は冷たく低かった。
「あなたが今まで対抗してきた女、小山という姓の女は何者?」
小山千恵子の話が出ると、桜井美月は憤りを隠せず、怒りが込み上げてきた。
「小山千恵子のこと?はっ、言うことなんてないわ。母親は早くに死んで、浅野家に居候してるだけよ。浅野武樹の...元妻よ」
桜井美月は少し躊躇したが、そう言い切った。まだ離婚は成立していないことは知っていたが、彼女にとってはもう関係なかった。
黒川芽衣は話を聞いて表情が一変し、歪んだと言えるほどの表情を浮かべた。
小山姓の娘で、母親は早くに亡くなっている。年齢を計算すると、まさに小山雫の娘だ!
「美月、あなた彼女を倒したいの?」
桜井美月は冷笑を浮かべた。「倒したい?死んでほしいくらいよ。まあ、もう長くは生きられないけど」
先日の第一病院の白野部長の話では、小山千恵子にはあと二、三ヶ月の命しかないとのことだった。
今回、桜井美月は小山千恵子にひどい目に遭わされ、黒川家に身を寄せていなければ、すでに投獄され、名誉を失っていただろう。