桜井美月は護送車の中に座り、笑いを抑えきれない気持ちでいっぱいだった。
藤原晴子というあのビッチの驚愕した表情を思い出すと、心の中で快感を覚えた。
今日の唯一の心残りは、小山千恵子がその場にいなかったことだ。
もしいたら、小山千恵子の表情がどれほど面白いものになっていたか、じっくり見たかったのに!
桜井美月は思わず声を出して笑ってしまい、護送係員は厳しい表情を浮かべた。
「大人しくしろ!」
確かに、誰も予想していなかった。あの無名の美しい女性が、黒川家の血を引く者だったとは。
帝都の黒川家に後継ぎがいないことは、周知の事実だった。
十数年前、ある騒動の後、黒川家は姿を消し、帝都の人々の視界から完全に消え去った。
しかし、今回の登場は派手なものだった。浅野家に対抗するだけでなく、大金を使って一人を救い出したのだ。
小山千恵子は空港の大型スクリーンでニュースを見終わり、頭の中が一瞬ぼんやりとした。
彼女は藤原晴子からのLINEも見ていた。
藤原晴子:桜井美月が救出された。彼女は黒川家の令嬢だったの。調べたけど、情報は本物よ。
小山千恵子は「黒川家」という文字を見つめ、心が沈んだ。
藤原晴子が既に調査を行っているということは、この親子関係には確かな証拠があるということだ。
そして帝都でこの件に興味を持っている人々は、彼女たちだけではないはずだ。
このように派手に、大々的に公表するということは、黒川家は黒川芽衣と桜井美月を守り抜く覚悟があるということだ。
浅野武樹の表情も暗くなった。父が長年探し続けていた戦友の遺児が、黒川家の血筋だったとは。
今や世論は、桜井美月は浅野家で散々苦労し、ようやく黒川家に戻り、避難所を見つけたかのような方向に向かっている。
浅野武樹は桜井美月に何一つ不自由な思いをさせていないと自負していたが、むしろ彼女の存在によって、小山千恵子に多大な負い目を作ってしまった。
そう考えると、浅野武樹の表情が暗くなり、小山千恵子の細い肩を腕で抱き、空港から連れ出した。
「先に帰って、相談しよう」
法廷では桜井美月にまだ6ヶ月の刑期があると宣告されたが、実際には護送車は拘置所に向かうことなく、直接黒川家の車と交換され、泉の別荘へと連れて行かれた。
桜井美月が車から降りた時、黒川芽衣は既に玄関で待っていた。