第115章 クルーズ船に売られて

小山千恵子が意識を取り戻したとき、どこかで揺れ動いているような感覚があった。

背中と足に冷たさを感じ、目を開けると、狭い船室の空間が目に入った。

潮風の香りが鼻をつき、耳には大きなエンジンの轟音が響いていた。

小山千恵子の心が締め付けられた。

海に連れて来られたのか……

試しに手足を動かしてみたが、拘束はされていなかった。

おそらく麻酔薬の影響で、まだ体がふらつき、後頭部も激しく痛んでいた。

小山千恵子が起き上がろうとしただけで、目の前が回り始め、額に冷や汗が浮かんだ。

仕方なく一度横になり、落ち着いて状況を整理することにした。

おそらくタイヤ交換を手伝ってくれた救援隊に問題があり、いつの間にか麻酔薬を使われたのだろう。

あるいは……

小山千恵子の心臓が跳ねた。

タイヤは最初から故意に破壊されていたのかもしれない!

小山千恵子が首を傾げると、身に着けているのがゴーティエの特注ドレスだと気づいた。値段は決して安くない。

高級な宝石をちりばめたロングドレスは、背中が大きく開き、深いスリットから小山千恵子の白い脚が覗いていた。

これは桜井美月一人の仕業とは思えない。

彼女一人の力では、誰にも気付かれずに自分を連れ去り、どこかへ向かう船に乗せることなどできるはずがない。

間違いなく、黒川家が動いたのだろう。

小山千恵子には理解できなかった。たとえ桜井美月との個人的な恨みがどれほど深くても、黒川家のような伝統ある名家がこんな形で介入するとは思えない。

小山千恵子にはどうしても理解できなかったが、ここで手をこまねいているわけにもいかなかった。

苦労して立ち上がると、豪華な衣装以外に何も持ち物がなく、携帯電話も身の回り品も見当たらなかった。

小山千恵子は立ち上がり、船の揺れに慣れるまでしばらく時間がかかったが、なんとかバランスを取り戻した。

激しいめまいは依然として続いており、喉が渇いていたが、テーブルの上の水を飲む勇気はなかった。

小山千恵子は足取りも定まらないまま扉まで歩き、姿見に映る自分の姿を確認した。

豪華なドレスに身を包み、メイクも完璧で、肩までの髪も丁寧にセットされていた。

小山千恵子の不安は増すばかりだった。もし単なる人質なら、こんなに念入りに着飾らせる必要はないはずだ。

もしかして……