携帯電話のリアルタイム監視映像には、藤原晴子の車の中や、小山千恵子が散歩でよく行くベンチ、そして予想もしなかった場所が、すべて厳重に監視されていた。
この監視が何を意味するのか、言うまでもない。
浅野武樹は背筋に冷や汗が走った。浅野遥の机の下にあった遠隔操作爆弾のことを思い出した。
寺田通もスクリーンの内容を見た。見覚えのある藤原晴子の赤いジープラングラーで、運転席の女性がコートを掛けて仮眠を取っており、危険が迫っていることにまったく気付いていなかった。
浅野武樹はバンと机を叩き、低く冷たい声で言った。「桜井美月、まだ懲りていないのか」
桜井美月は何でもないように笑い、携帯を片付けると、足を組んで悠々とお茶を入れ始めた。
「岩崎さん、馬鹿なことはやめましょう。浅野家も、帝都も、もう私には手出しできないわ。そうでなければ、私が刑務所から出て、一命を取り留められたはずがないでしょう?」
浅野武樹の瞳孔が縮み、薄い唇を一文字に結び、こめかみが激しく脈打った。
桜井美月の底力を甘く見すぎていた。
浅野家にいた頃、彼女を何も分からない妹のように扱い、一人の少女がどれほどの波乱を起こせるというのか?
そして、このように一見無害な被害者に見える彼女によって、妻子と別れ、今では浅野家までも彼女の手によって破壊されようとしていた。
浅野武樹は、もし小山千恵子が安全に自分の元に戻り、しっかりと守ることができれば、何の心配もなく桜井美月や黒川家と対抗できると考えていた。
しかし療養院で別れて以来、小山千恵子に会えていない。A国に避難させようと思ったが、連絡すら取れなかった。
すべての情報は、自分の情報網と寺田通の探りによるものだった。
かつての自分の言動が彼女を深く傷つけすぎたからこそ、今このような事態になってしまったのだ。
桜井美月は浅野武樹の目に浮かぶ複雑な感情を見て、冷たさから後悔まで、何を考えているか分かった。
彼女は不機嫌そうに口角を下げ、心に悪意が湧き上がった。
桜井美月は再び監視映像を開き、画面を白いベントレーコンチネンタルに切り替えた。
浅野武樹の心が締め付けられた。それは彼が小山千恵子にプレゼントした車で、彼女が使える唯一の持ち物だった。