小山千恵子は道で新鮮なスズランの花束を買った。白い小さな花は清らかな香りを放っていて、おじいちゃんはきっと喜んでくれるはずだ。
墓地の小道を再び歩くと、小山千恵子は別世界にいるような感覚に襲われた。
前回おじいちゃんを見送って以来、ここには来ていなかった。
慣れた道を通って墓地の一角に着くと、おじいちゃんの墓石の隣には、小さな墓石が置かれていた。
小山千恵子は近づき、自分の小さな白黒写真を見つめた。
二つの墓石の前はほこりひとつなく、枯れたクチナシの花が二束置かれているだけだった。
小山千恵子は考えた末、スズランを二本分けて自分の墓石の前に置いた。
彼女は黙り込んだ。
この二本の花で、かつての自分に別れを告げよう。
おじいちゃんの墓石の前に来ると、小山千恵子は手で浮いたほこりを払い、花を置いた。
「おじいちゃん、ごめんなさい。こんなに遅くなってしまって。前に少し病気になって、もう治ったんだけど、おじいちゃんに伝える前に逝ってしまって……」
「それと、お父さんを見つけたの。三年かかったけど、少しずつ受け入れようとしてるの。おじいちゃんもそれを望んでいたでしょう……」
「あと、おじいちゃん、ひ孫ができたのよ。優子はとても良い子なの。でも私の育て方が悪くて、まだ話せないの……」
話せば話すほど胸が痛くなり、小山千恵子は声を詰まらせ、しばらく言葉が出なかった。
涙を拭いて、笑顔を作った。「あぁ、また泣いちゃった。おじいちゃんに楽しい話をしようと思ったのに……」
小山千恵子は墓石の前で長い間話し続け、喉が渇くほどだった。
冷たい風が吹き、顔を上げると、もう日が沈みかけていた。
小山千恵子はコートのベルトを締め、髪をまとめた。「おじいちゃん、また来るね。」
突然、静かな墓地に足音が響いた。
小山千恵子は理由もなく胸が高鳴り、心臓がドキドキと打ち始めた。
藤原晴子も寺田通も用事があって、この時間に来るはずがない。
こんな時間に誰がいるの?
小山千恵子は足を止め、墓石の前に釘付けになったように、足音の方向から目を離すことができなかった。
逆光の中を大きな影が近づいてきた。男は背が高かったが、背中が少し丸まっていて、とても疲れているように見えた。
小山千恵子は耳鳴りがし、記憶が押し寄せてきた。