藤原晴子は小山千恵子の表情を見て、彼女が何を考えているのか察した。
「そうよ、確かに中腹別荘よ。資料を手に入れてすぐに調べたわ。今はオープンな独立したスタジオになっていて、もう...かつての住宅ではないの」
小山千恵子の目が少し暗くなり、心に淡い寂しさが漂った。
これも彼女が望んでいた結果ではあったが、長年暮らしてきた場所を最後に見ることができなかったことが残念だった。そこには多くの思い出があり、思い返すと少し心残りがあった。
でも、浅野武樹が中腹別荘を活用しようとしているということは、彼もこの一章を乗り越えたということだろう。
小山千恵子は資料をめくりながら、気の向くままに質問した。
「彼は今、何をしているの?」
藤原晴子は驚いた表情を見せた。これは小山千恵子が初めて浅野武樹のことを尋ねたのだ。
もう四年近く、藤原晴子は小山千恵子の心中を測りかねていた。暗黙の了解で浅野武樹の話題は避けており、小山千恵子も尋ねることはなかった。
藤原晴子は咳払いをして、正直に答えた。「実を言うと、私も彼が帝都にいるということしか知らないわ。寺田通さんも長い間会っていないみたい」
小山千恵子は軽く「うん」と返した。「生きているならそれでいい」
藤原晴子は気まずく笑い、どう応じていいか分からず、戦術的にアイスコーヒーを一口飲んだ。
小山千恵子の心の中には、やはり浅野武樹への気がかりが残っていた。
資料を閉じ、小山千恵子は数件のLINEに返信してから、真剣な表情で言った。「私探偵を雇って、黒川芽衣と母の当時の事件について引き続き調査させているわ」
藤原晴子は眉をひそめた。「まだ黒川芽衣のことを疑っているの?黒川さんが何か隠していると思うの?」
小山千恵子はため息をついた。彼女もそんなふうに考えたくはなかった。
黒川啓太が語った当時の真相は、確かに母の死を説明できたが、藤田錦の命を奪ったあの事故については説明できなかった。
彼女はこれで終わりにしようと思ったが、何度考えても納得がいかなかった。
もしあれが本当に事故だったのなら、以前浅野武樹の書斎で見つけた、母の小山雫を陥れる証拠の説明がつかない。
当時の出来事には、必ず何か裏があるはずだ。
二人がカフェを出て、藤原晴子は小山千恵子を中腹別荘まで送った。