藤原晴子は小山千恵子の手を握りしめた。「分かったわ、手配しておくわ」
小山千恵子の声の確かさと、目に宿る静けさに、藤原晴子は少し安心した。
過去に何があったにせよ、愛であれ憎しみであれ、小山千恵子は今回本当に手放す覚悟を決めたようだった。
小山千恵子も藤原晴子の手を握り返し、温もりが伝わってきた。
人とは、壁にぶつからなければ気づかないものだ。命が枯れ果てるまで、すべての愛憎は重荷でしかないと気づかないのだ。
小山千恵子は車椅子に座り、静かに療養院の最上階へと押されていった。
近くには医療用航空機が待機しており、看護師たちが薬剤や機器を機内に運び込んでいた。
藤原晴子が小山千恵子をゆっくりと押しながら、看護師たちの会話が耳に入ってきた。
「医療用航空機を見るのは初めてよ。この一回の費用だけで数千万円からなのよ!」