第143章 明日は小山お嬢さんの葬儀

藤原晴子は小山千恵子の手を握りしめた。「分かったわ、手配しておくわ」

小山千恵子の声の確かさと、目に宿る静けさに、藤原晴子は少し安心した。

過去に何があったにせよ、愛であれ憎しみであれ、小山千恵子は今回本当に手放す覚悟を決めたようだった。

小山千恵子も藤原晴子の手を握り返し、温もりが伝わってきた。

人とは、壁にぶつからなければ気づかないものだ。命が枯れ果てるまで、すべての愛憎は重荷でしかないと気づかないのだ。

小山千恵子は車椅子に座り、静かに療養院の最上階へと押されていった。

近くには医療用航空機が待機しており、看護師たちが薬剤や機器を機内に運び込んでいた。

藤原晴子が小山千恵子をゆっくりと押しながら、看護師たちの会話が耳に入ってきた。

「医療用航空機を見るのは初めてよ。この一回の費用だけで数千万円からなのよ!」

「それに、この特注の最先端医療機器も、国内では二台とないものよ」

「さすが海都市の千葉家ね。資産なら帝都でも指折りだわ」

話す方に意図はなくとも、聞く方には心当たりがあり、小山千恵子は心に申し訳なさを感じずにはいられなかった。

もし彼女のこの体と厄介な病気が千葉隆弘の足かせにならなければ、彼はもうレース界を駆け抜けるプロのレーサーになっていたかもしれない。

乗っているのも医療用航空機ではなく、自分のチームを率いて世界中でレースを戦い、トロフィーを手にする旅路だったはずだ。

藤原晴子は小山千恵子の頭を撫でた。「考えすぎないで。人は好きなことを言わせておけばいいの。千葉次男坊にとっては、お金では買えない喜びなのよ」

藤原晴子は小山千恵子が気にしやすい性格だと知っていたので、このような話を聞けば自責の念に駆られることは分かっていた。

小山千恵子が口を開く前に、藤原晴子は付け加えた。「もし本当に隆弘に申し訳ないと思うなら、しっかり治療に専念すればいいの。私たちだって数千万円は稼いだことあるでしょう。後で返せばいいのよ」

小山千恵子の表情が柔らかくなり、うなずいて、遠くで忙しく動き回る背の高い人影を見つめた。

「でも、隆弘の望むものを、私はあげられない」

藤原晴子は手を伸ばして小山千恵子の頬をつねった。「私の望むものだってあなたはくれられないわ。今は治療に専念して、他のことは後で考えましょう」