三年ぶりに帝都に戻った小山千恵子は、空気の中の懐かしい香りを嗅ぎ、鼻が少し酸っぱくなった。
帝都は変わっていないようで、以前と同じだった。しかし、よく見ると、人も景色も変わってしまったようだった。
この都市は前進する巨大な車輪のようで、誰も、何も、それを揺るがすことはできなかった。
かつて一時期を騒がせた浅野家や黒川家、そういった名門の出来事も、この都市の塵の中に消え去ってしまった。
飛行機が着陸し、小山千恵子が再び帝都の地を踏んだとき、心の中に言い表せない安心感があった。
結局のところ、彼女はここに属する人間なのだ。
小山千恵子は、だらしなくカールした黒髪を後ろで束ね、黒いマスクと野球帽をかぶり、優子を連れて飛行機を降りた。
エコノミークラスの人々の中に紛れ込み、誰も小山千恵子に二度と目を向けなかった。
帰国前、黒川啓太は小山千恵子に、この機会に新しい身分を作って、自然な形で黒川家に入ることを提案した。
小山千恵子はそれを断った。
浅野武樹との絡み合いから何かを学んだとすれば、それは振り返らないということかもしれない。
過去とすっきりと決別したのなら、前を向いて進むべきだ。
優子の病気が治ったら、すぐに新国に戻るつもりだった。
目立たないように行動するため、黒川啓太は小山千恵子に新しい身分を用意し、入国も順調に進んだ。
駐車場に着き、藤原晴子の赤いジープを見つけると、小山千恵子は足早に近づき、かすかな会話が聞こえてきた。
「こんな風に取り付けるの?こんなに小さくて、子供は座れるの?」
「大丈夫なはずよ、カスタマーサービスに確認したから」
優子は小山千恵子の胸に寄り添い、大きな目で不思議そうに見つめていた。小山千恵子が顔を下げると、後部座席で忙しそうにしている二人が目に入った。
「晴子さん、寺田さん、何をしているの?」
藤原晴子は後部座席から飛び出してきた。茶色い髪の毛が乱れ、額には薄い汗が浮かんでいた。
「千恵...あ、違った。あのね、チャイルドシートを取り付けてるの!」
藤原晴子は小山千恵子の新しい名前にまだ慣れておらず、呼び間違えそうになった。子供を受け取ると、また後部座席に潜り込んだ。
寺田通は顔を上げ、三年ぶりの小山千恵子を見た。