第157章 浅野武樹もそこにいる

三年ぶりに帝都に戻った小山千恵子は、空気の中の懐かしい香りを嗅ぎ、鼻が少し酸っぱくなった。

帝都は変わっていないようで、以前と同じだった。しかし、よく見ると、人も景色も変わってしまったようだった。

この都市は前進する巨大な車輪のようで、誰も、何も、それを揺るがすことはできなかった。

かつて一時期を騒がせた浅野家や黒川家、そういった名門の出来事も、この都市の塵の中に消え去ってしまった。

飛行機が着陸し、小山千恵子が再び帝都の地を踏んだとき、心の中に言い表せない安心感があった。

結局のところ、彼女はここに属する人間なのだ。

小山千恵子は、だらしなくカールした黒髪を後ろで束ね、黒いマスクと野球帽をかぶり、優子を連れて飛行機を降りた。

エコノミークラスの人々の中に紛れ込み、誰も小山千恵子に二度と目を向けなかった。