桜井美月は浅野武樹の目の中の冷酷さに気付かず、自然に彼の腕に手を回した。
「岩崎さん、長く待ちましたか?行きましょう」
浅野武樹は寺田通に一瞥を送り、長い脚で民政局の門をくぐった。
シャッター音とフラッシュが狂ったように光り、寺田通も制止せず、脇に寄って小声で電話をかけて手配していた。
写真撮影、手続きと、浅野武樹は意外なほど協力的で、桜井美月は夢を見ているような感覚だった。
もしかして小山千恵子が死んで、浅野武樹へのショックが大きすぎて、彼の性格が変わってしまったのかもしれない!
職員の机の向かいに座り、二冊の婚姻届を見つめながら、桜井美月は心臓が飛び出しそうなほど高鳴り、幸せに満ち溢れていた。
職員がサインさえすれば、彼女と岩崎さんは、合法的な夫婦になれる!
思わず横を向いて浅野武樹を見たが、彼は冷たい目つきで窓の外を見つめ、何かを待っているようだった。
職員は浅野武樹の表情を一瞥してから、再び頭を下げ、書類を確認し直した。
桜井美月は少し焦れてきた:「まだ確認が終わらないんですか?早くお願いします」
職員は声を出す勇気もなく、耳元で冷たい声が響いた。
浅野武樹は口角に皮肉めいた笑みを浮かべて:「何を急ぐ必要がある、もう少し待て」
窓の外でパトカーのライトが光り、浅野武樹の目に喜色が浮かんだ。
来たな。
サイレンが鳴り響き、数人の警察官が次々と入ってきた。
桜井美月は驚いて、反射的に隣の男性に寄りかかろうとしたが、空振りに終わった。
振り向くと、浅野武樹はすでに数歩後ろに下がり、冷たい目で彼女を見つめていた。
「岩崎さん……」
桜井美月は心が慌てふためき、言葉が途切れたところで、警察に拘束された。
「桜井さん、偽証罪の容疑で証拠が揃っています。我々と同行願います」
メディアは警察に続いて殺到し、こんな大きなスクープに出会えるとは思わなかった。
浅野武樹と桜井美月の婚姻届だけでも十分衝撃的だったのに、まさかこんな展開があるとは!
桜井美月は暴れながら、顔を真っ赤にして:「離して!私の弁護士に会わせて!誰が、誰が……!」
浅野武樹は横に立ち、喉の奥で冷たく笑った:「私の手元の証拠は、お前の弁護士から来たものだ」
桜井美月は驚愕して顔を上げ、浅野武樹を見つめ、信じられない表情を浮かべた。