浅野武樹は、その優美な文字から目が離せなかった。
これらのアイデアは、すべて小山千恵子が提案したものだった。
横にある彼の文字は、ただ実践的なアイデアを提供しただけだった。
この革のノートが最後のページまでめくられ、重々しく閉じられると、埃が舞い上がった。
浅野武樹は心を落ち着かせ、徐々に冷たさが込み上げてきて、低い声で口を開いた。
「これが私をここに連れてきた目的だったんですね?」
彼も目の前の女性を見くびっていた。
彼に近づいたのは、記憶を取り戻すためだけではないはずだ。
すでに協議離婚をしているのだから、過去には双方が忘れたい出来事があったに違いない。
小山千恵子は表情を変えなかったが、心は震えた。
浅野武樹は相変わらず鋭かった。
彼の墨のような瞳の中で、彼女はまた逃げ場を失ったようだった。
小山千恵子は視線をそらし、耳元の髪をかきあげながら、率直に話し始めた。
「その通りです。私は当時、浅野グループがファッション産業に進出することを決めた理由をお伝えしたかったんです。そして、それをこのまま売却しないでほしいと思っています。」
小山千恵子は言い終わると、心配になってきた。
以前の公開投資会で取締役会が満足する投資家を見つけられなかったとはいえ、これは浅野グループが今後動きを見せないということではない。
この事業は、彼女と浅野武樹が共に育てたものだ。誰の手に渡るかもわからない状態にはしたくなかった。
小山千恵子は浅野武樹のことをよく理解していた。浅野武樹が決めたことは、なかなか変えられない。
彼女もこの方法を思いつくしかなかった。
浅野武樹の瞳は黒い湖面のように静かで、心の内が読めなかった。
彼は手を振るだけで、この事業を銀魂や上田ファッションに任せることもできた。そして彼もそうしたいと思っていた。
浅野武樹の表情が次第に冷たくなった。彼は当然、元妻に手足を縛られたくはなかった。
しかし、しばらくして、彼の唇に意味深な笑みが浮かび、冷たい声がこの小さな展示室に響いた。
「小山お嬢さん、浅野グループは私一人のものではありません。この件は、私だけでは決められないのです。」
小山千恵子は心が沈んだ。彼は浅野武樹の内面にある独断的で頑固な一面を忘れていた。