第209章 小山千恵子が浅野家に加入

小山千恵子は泉の別荘に戻ると、心身ともに疲れ果てていた。急いで中庭に入ると、そこで日向ぼっこをしていた優子とばったり出会った。

「ママ!」

優子は小走りで近寄り、千恵子の手を握った。

子供のぽっちゃりした頬や、お餅のような小さな拳を見ていると、千恵子の心は突然温かくなった。

優子の眉間には子供らしい無邪気さが増し、体つきもふっくらと丸みを帯びていた。

彼女は少し安堵した。優子を帝都に、泉の別荘に連れ戻してきて良かった。

家庭が子供に与える影響は、以前の彼女が考えていたよりもずっと重要だった。

彼女は優子を抱き上げ、中庭に入ると、黒川啓太が籐椅子で本を読んでいた。

「千恵子、お帰り?」

黒川啓太は立ち上がり、千恵子の姿を見て眉をひそめた。

「どこに行っていたの?こんなに埃だらけで」

千恵子は優子を下ろし、自分の服を見下ろすと、アトリエで付いた埃が服についているのに気付いた。

「なんでもないわ、以前のアトリエに行っただけ」

黒川啓太は千恵子が帝都に戻ってから自分のキャリアに忙しいことを知っていたが、彼が心配していたのは、千恵子が黒川家の資源を借りようとしないことだった。

彼は頷いただけで、それ以上説得しようとはしなかった。

千恵子を見つけてからというもの、彼も父親としての在り方を学んでいた。

おそらく手を放し、千恵子に自由に好きなことをさせ、彼女が危険や困難に直面したときに、いつでもそこにいる後ろ盾になることが最善なのだろう。

優子は千恵子の手を引っ張って、中庭の小さなテーブルに連れて行き、自分の最新の「傑作」を見せようとした。

千恵子はしゃがみ込んで、優子の絵をじっくりと見つめ、驚きと喜びを感じた。

彼はずっと絵を描くことが好きで、高い才能も見せていた。

おそらく優子が小さい頃、彼女がいつもデザイン画を描いていたことが、優子に無意識の影響を与えたのかもしれない。あるいは以前の優子が、言葉で自分を表現できなかったため、よく絵を描き、絵筆で感情を表現することに慣れていたのかもしれない。

黒川啓太が近寄り、しばらく考えてから口を開いた。

「千恵子、優子の将来について、どう考えているんだ?」

千恵子は表情を引き締めた。彼女は黒川啓太が優子の就学について尋ねていることを理解していた。