第210章 彼は何を慌てているのか

寺田通が仕事の報告を終え、立ち去ろうとしていた。

この件は重大な影響があり、藤原晴子から全く聞いていなかった。

考えてみると、藤原晴子がこの件を知っているかどうかさえ、確信が持てなかった。

社長室のドアを開けた瞬間、浅野武樹は何かを思い出したように言った。「そうだ、後で彼女が来たら、まず私のところに連れてきてくれ。」

ある理由で、浅野武樹の社長室は常に立ち入りが制限されていた。

実は特に理由はなく、ただ浅野武樹が仕事に集中している時に邪魔されるのを嫌い、何度も機会を見つけては彼に会いに来る女性たちに頭を悩ませていたため、最終的にこの決定を下したのだった。

寺田通は少し躊躇し、目に不安を浮かべながらも口を開いた。

「小山お嬢さんでしたら、私が案内する必要はないかと。」