第211章 エレベーターの壁ドン

浅野武樹は普段通りに引き出しを開け、中から別の社員証を取り出して渡した。

小山千恵子も何も言わず、素直に受け取り、心の中で少し笑みがこぼれた。

彼女は浅野武樹の赤くなった耳を見た。

彼にも恥ずかしがる時があるのだと。

小山千恵子は社員証の情報を確認し、表情を引き締めた。

デザイン部か管理部のはずなのに。

なぜ社員証の役職が社長特別補佐なのだろう?

浅野武樹は小山千恵子の顔に浮かぶ戸惑いを見抜き、両手を組んで感情の読み取れない口調で言った。

「ファッションデザインの事業は、私と寺田が直接管理しているからな。社長室に配属するのは、仕事がしやすいからだ。」

小山千恵子は浅野武樹の目に一瞬光るものを見て、理解した。

浅野武樹が単なる利便性のために彼女を側に置くはずがない。