テラスを離れた後、浅野武樹はずっと心ここにあらずの状態だった。
テラスにいたあの女性の細い姿が、どういうわけか彼の脳裏に焼き付いていた。
どこかで会ったことがあるのだろうか?
浅野武樹は何気なく隣にいる桜井美月を一瞥した。彼女はすでに普段通りの表情を取り戻していた。
しかし、彼は見逃さなかった。桜井美月があの女性を見た時の目に宿った恐怖と憎しみを。
浅野武樹は静かにシルバースターレーシングチームの名前を心に留めた。
わずかな手がかりさえあれば、浅野家が見つけられない人間などいない。
「浅野社長、浅野社長?」
浅野武樹は急に我に返り、目の前で笑顔を浮かべる中年の男性を見て、丁寧に応じた。「申し訳ありません、京極社長。考え事をしていました。」
こんな社交の場で気を散らすなんて、信じられない。