第189章 彼女はあなたの元妻です

テラスを離れた後、浅野武樹はずっと心ここにあらずの状態だった。

テラスにいたあの女性の細い姿が、どういうわけか彼の脳裏に焼き付いていた。

どこかで会ったことがあるのだろうか?

浅野武樹は何気なく隣にいる桜井美月を一瞥した。彼女はすでに普段通りの表情を取り戻していた。

しかし、彼は見逃さなかった。桜井美月があの女性を見た時の目に宿った恐怖と憎しみを。

浅野武樹は静かにシルバースターレーシングチームの名前を心に留めた。

わずかな手がかりさえあれば、浅野家が見つけられない人間などいない。

「浅野社長、浅野社長?」

浅野武樹は急に我に返り、目の前で笑顔を浮かべる中年の男性を見て、丁寧に応じた。「申し訳ありません、京極社長。考え事をしていました。」

こんな社交の場で気を散らすなんて、信じられない。