浅野武樹は主席に悠然と座り、小山千恵子が強引に付き合いをしている様子を見て、何とも言えない爽快感を覚えた。
もしこの女に別の思惑があるのなら、これくらいの苦労は当然の報いだ。
彼から何かを引き出そうとするなら、それなりの代価を払わなければならない。
浅野武樹は視線を逸らし、酒を一口飲んだ。
最初、小山千恵子を見かけると、なぜか心が落ち着かなかった。しかし彼女は常に計算高く、余裕のある態度を見せていた。
この操られている感じ、見透かされている感覚が、彼を不快にさせた。
小山千恵子は京極社長とぎこちない会話を交わしながら、心は近くにいる優雅で気品のある男性に向かっていた。
浅野武樹の獲物を見る目つきは、彼女にとってはあまりにも馴染み深いものだった。
ただし、以前は傍観者だったが、今は自分が罠にかかった獲物となっていた。
浅野武樹の彼女に対する警戒心は、彼女の想像以上に強かった。
そうだよね、と小山千恵子は心の中で冷ややかに笑った。
突然現れた女性で、しかも自分には記憶のない元妻。去ったはずなのに戻ってきて、さらに過去の自分のことを知り尽くしている……
小山千恵子はグラスを強く握りしめ、諦めたように溜息をついた。
これも予想すべきことだったのではないか。
浅野武樹の心は、常に氷の壁のようだった。以前は中にいて、安定感と安全を感じていた。
しかし今は外にいて、たとえ真心を切り開いて彼の前に投げ出しても、その氷の層は溶けない。
京極社長は小山千恵子と話をしながら、目は浅野武樹を見ていた。
浅野社長は……まだ口を開く気配がないようだった。
京極社長は輝く目を小山千恵子に戻し、目を回した。
浅野社長のこの暗示は、十分明確だった。
交渉は形式的なものなのに、わざわざ小山千恵子を連れてきて、夜の店にも来ている。
明らかに、この小山お嬢さんを上手くもてなすことが重要だということだ。
京極社長は小山千恵子と乾杯し、一気に飲み干した。「小山お嬢さん、失礼します。」
小山千恵子は心の中でほっと息をつき、強引にグラスの中の強い酒を飲み干した。喉から胃まで焼けるような感覚が走った。
血液がんが完治してから優子を産み、もう三年近くアルコールに触れていなかった。
小山千恵子は一杯で倒れるタイプではなく、以前は浅野武樹と家で少し飲むのが好きだった。