第215章 浅野武樹はまだ彼女を試している

小山千恵子は大和帝国という場所に全く好感を持っていなかった。そこで大野武志に関わってしまい、二度も命を落としかけたのだから。

横にいる無表情な男を横目で見ながら、小山千恵子は心の中で感慨深く思った。

大野武志に関わることになったのも、浅野武樹のおかげだ。

でも当の本人は、何事もなかったかのように、すべてを忘れてしまったようだった。

ビルの下に着くと、寺田通が既に車の横で待っていた。

浅野武樹は近づきながら低い声で指示した。「大和帝国へ行け」

寺田通は一瞬驚き、思わず小山千恵子と目が合った。

なぜまたあの場所へ?前回あそこで起きた騒動を思い出すと、今でも背筋が寒くなる。

小山千恵子はかすかに首を振り、身を屈めて車に乗り込んだ。

彼女は浅野武樹と京極社長が水面下で話し合わなければならない内容が何なのか分からなかったが、確かに優子の元に戻りたい気持ちでいっぱいだった。