第214章 公にできない交渉

桜井美月は知らなかった。既婚者に執着するという話題が、かつて浅野遥の前では禁忌だったことを。

ただ、帝都での出来事は多く、また長い年月が過ぎ、多くの人々も忘れてしまっていた。

当時、藤田錦と浅野遥が結婚し、浅野武樹を産んだ後も、彼女は黒川家の黒川啓太に執着し続けた。その時、黒川啓太は既に小山雫の夫だった。

この件で浅野遥は帝都で面目を失い、そのため藤田錦が亡くなった時も、それは自業自得、因果応報だと考え、深い悲しみさえ感じなかった。

その後、浅野遥が再婚しなかったのも、もう女性を軽々しく信じる勇気がなかったからだ。

浅野遥は、うつむいて震える桜井美月を見て、突然心が和らいだ。

当初、他の誰かを探して、様々な理由をつけて、浅野武樹に小山千恵子を完全に忘れさせることもできた。