第213章 不可解な独占欲

小山千恵子の目に信じられない色が閃き、すぐに声を失って笑った。

彼女はそこまで計算していなかったのに、浅野武樹は彼女を買いかぶっていたようだ。

彼の言葉の意味は、桜井美月がそこに現れたことまでも、彼女の計算だというのか?

申し訳ないが、小山千恵子にはそこまでの力はないし、そんな卑劣な手段を使う気も無い。

小山千恵子は深いため息をつき、楽な姿勢に座り直して、さわやかに笑った。

「浅野社長が私をどう思おうと、お好きにどうぞ」

ただし、記憶を取り戻した後で、後悔しないでくださいね。

後半の言葉は喉元で止めた。これ以上浅野武樹を怒らせるわけにはいかない。

彼女は早く彼の記憶を取り戻させることばかり考えていたが、浅野武樹が如何に深謀遠慮で慎重な人物であるかを忘れかけていた。

今の彼女は彼にとって、かつて最も親しかった見知らぬ人。多くの過去を抱えながら、積極的に近づこうとする彼女を、浅野武樹の性格では当然疑うだろう。

隣の女性が何も気にしていないような様子で、もう口を開こうとしないのを見て、浅野武樹も胸に怒りを抱えていた。

まさにこの何も気にしない、反論もしない態度が、さらに彼の怒りを掻き立てた。

小山千恵子が自分の元妻だと知り、自分もかつて今の自分では理解できないような情熱的な行動をしていたと知って以来、浅野武樹の心に不思議な変化が生じていた。

なぜか、彼は小山千恵子に対して不可解な所有欲を感じていた。

まるで身体の本能のようで、また条件反射のようでもあった。

この所有欲と興味は蔦のように彼の心の中で狂ったように成長していった。

しかし、そんな自分であればあるほど、小山千恵子が彼を見る時の、波風の立たない、死んだ水のような眼差しを受け入れることができなかった。

彼女が突然戻ってきて自分の心を乱し、まるで何も悪くないかのように立っていて、自分には一切の責任がないと主張している。

浅野武樹は無意識に指輪を回しながら、もう隣の人を見ることなく、目を閉じて休んでいた。

小山千恵子のことを考えると、どうしても心が落ち着かなかった。

彼は感情を含め、何事にも支配されることを好まなかった。

寺田通は否応なしに状況を見守りながら、必死に表情をコントロールし、車を安定して運転していた。

もし彼が運転手でなければ、車の下にいたかもしれないと思った。