桜井美月は涙を目に浮かべながらも、浅野武樹の権威に公然と挑戦する勇気はなく、服の裾をぎゅっと握りしめた。
自分の妻が侮辱されたばかりなのに、この男はどうしてこんなにも無関心でいられるのか!
そして、証拠を集めるということは、警察に通報することを意味する。
前科のある彼女は、もう二度と警察と関わりたくなかった……
小山千恵子は警察への通報を終え、緊張感漂う更衣室に戻り、冷静な目で周囲を見渡した。
「警察がもうすぐ来ます。厳重な秘密保持を特別に依頼しました。桜井さんは後で署に行って証拠採取をすればいいです」
桜井美月は篩にかけられたように体を震わせ、顔の両側に垂れた髪が目の中の険しさを隠していた。
彼女は全てを計算していたのに、浅野武樹が小山千恵子の味方をするとは思いもよらなかった!