小山千恵子は何が起きたのか分からず、意を決して本部長室に足を踏み入れた。
「浅野社長、おはようございます。」
なるほど、朝からこんな重苦しい雰囲気なのは、浅野武樹が早くからここで怒っていたからだ。
本部長室は直接彼に報告する部署だが、自分の立場が圧力になることを考慮して、彼はめったに本部長室に足を踏み入れることはなかった。
今回は何をしに来たのだろう?
浅野武樹は長い脚で部屋を出ようとし、小山千恵子とすれ違いざまに低い声で言った。「ファッションショーの企画案は決定した。小山本部長は仕事に専念してください。」
ウッディな香りが漂い過ぎ去り、男は廊下の奥へと消えていった。
小山千恵子の目に疑問の色が浮かんだ。
わざわざ来たのは、それを言うためだけ?
若い社員たちは穴から顔を出すプレーリードッグのように、次々と席から顔を出し、きょろきょろと大きな目を回していた。