千葉隆弘は小山千恵子の表情を見て、耳を垂らした子犬のようだと思った。
「千恵子さん、まだ彼のことを心配しているんですか?」
小山千恵子は思考を中断され、一瞬言葉に詰まったが、赤くなった耳先が彼女の気持ちを裏切っていた。
心配していないと言うのは、自分を欺くだけだった。
彼女が帝都に戻ってから、浅野武樹はずっと病気に苦しんでいた。
そう、確かに、これはこの男が受けるべき罰だった。彼が自分に対して負っている借りは、これよりもずっと多かった。
しかし、10年間を共に歩んだ人だ。たとえ表面上どれだけ強く装っても、心の中では完全に無関心でいられるはずがなかった。
この瞬間、彼女は自分の中にまだ少しだけ優しさが残っていることを理解した。
小山千恵子は心の動揺を抑えて言った。「記憶を取り戻すにしても、体を傷つける代償を払ってはいけない。」