第278章 私はそれらの物は要らない、私にはあなたが必要だ

小山千恵子の弱々しい声は浴室まで届かず、モリ先生は疲れた表情で扉を開けたが、入り口で立ち止まった。

「外でお待ちください。彼は今の姿を人に見られたくないと思います」

小山千恵子は暗い眼差しで心配そうな表情を浮かべ、思わずモリ先生の肩越しに診療室を覗き込んだ。

柔らかい半リクライニングソファ、薄暗い照明、床に散らばった機器や筆記用具。明らかに浅野武樹が慌てて落としたものだった。

冷たい電極パッドや奇妙な額固定具が、小山千恵子の胸を締め付けた。

彼女は唾を飲み込み、うなずいて半歩後ずさりした。

水の音が突然止み、二人は同時に洗面所の閉まったドアを見た。

カチッ。

鍵が開く音に、小山千恵子の心臓が強く握りしめられるような感覚に襲われた。

浅野武樹がドアを開け、ドア枠につかまりながら、一歩踏み出した時に入り口の様子に気付いた。