第310章 浅野武樹の焦燥

浅野武樹は足取りがふらつきながら出てきた。青白く端正な顔には疲労の色が満ち、まるで放心状態のようだった。

いつもきちんと整えられた黒髪が乱れて額に垂れ、シャツの襟元は二つのボタンが外され、袖をまくり上げて逞しい腕が露わになっていた。

小山千恵子は近寄る間もなく、驚きの表情で浅野武樹の腕を見つめた。

そこには深い傷跡が数本あり、まるで何かで強く締め付けられたかのようだった。

「浅野さん、その腕は一体――」

言葉が終わらないうちに、男は我に返ったように顔を上げ、目の前の女性を見つめた。

深淵のように暗かった瞳が、一瞬にして光を宿したかのようだった。

小山千恵子が言葉を終える前に、熱い抱擁に包まれた。

「千恵子、ここにいたのか、よかった……」

小山千恵子は状況が飲み込めないまま、ただ浅野武樹の乱れた呼吸と、まるで飛び出しそうな激しい心拍を感じていた。