小山千恵子は両手で手すりをしっかりと握り締め、車体が激しく揺れる中、不注意で頭がガラスに当たってしまった。
浅野武樹は歯を食いしばり、滑りやすい路面で車体をコントロールしながら、道を塞ぐハマーを危うく擦り抜け、恐ろしい金属の摩擦音を立てた。
「大丈夫か?」
浅野武樹は心配そうに尋ねながら、スピードを上げた。
黒いロールスロイスは影のように林間道路に滑り込んだ。
幸いにも、この道は浅野武樹がよく知っている場所だった。そうでなければ、この吹雪の夜では事故を避けるのは難しかっただろう。
今は、これが後ろを追ってくる二台の暴走車を振り切る最善の方法だった。
「私は大丈夫よ」
小山千恵子は気を取り直し、冷静さを保とうと努めながら、頭の中で考えを巡らせた。
大野武志や黒川芽衣、そして桜井美月にしても、彼女を狙うには条件があり、目的があった。
しかし、先ほどの行動で千恵子には分かった。
彼らは他の何も欲しがっていない。ただ彼女と浅野武樹の命が欲しいだけだった。
浅野武樹も明らかにこの問題に気付いており、カーブを巧みに走りながら、対策を練っていた。
しかし後ろの二台のナンバープレートのないハマーは、まるでこの道をよく知っているかのようだった。
浅野武樹は振り切ることができないどころか、むしろ追手との距離は縮まっていった。
「チッ」浅野武樹は歯を食いしばり、ハンドルを強く握り締めた。タイヤが氷上を滑る際、耳障りな悲鳴のような音を立てた。
ボディーガードから電話が入り、高速道路の入り口に到着したと報告があった。
浅野武樹は車体の横滑りを最小限に抑えようと努めたが、後ろの二台は命知らずの暴走車のように、ガードレールや壁に擦りながら、突進してきた。
バンという音とともに、一台がロールスロイスの後部に突っ込んできた。車体は制御不能に陥り、前方へ滑っていった。
小山千恵子は浅野武樹の軍隊で鍛えられた運転技術を信頼していても、この状況では緊張と恐怖を感じずにはいられなかった。
前方の道は真っ暗で、ヘッドライトが照らす範囲にだけ、密な雪が舞っていた。
車がヘアピンカーブを急旋回すると、千恵子は後方遠くに赤と青のパトカーのライトが点滅しているのを見た。
「来た!」
小山千恵子の目が輝き、期待が膨らんだ。