小山千恵子は黙って揺らめく炉の火を見つめ、物思いに沈んでいた。
彼女自身、今の浅野武樹に対する気持ちがどういうものなのか、まだはっきりとはわからなかった……
というより、この問題について考えることを避け続けていたのだ。
彼を許すことは、過去に彼から受けた苦しみに申し訳が立たないような気がした。
他人のように距離を置きながらも、彼の一挙一動に心が揺さぶられてしまう。
しかし浅野武樹が記憶を取り戻してからは、二人は抗いがたい相互の引力に捕らわれているようだった。
この制御不能な感覚が、さらに彼女の心を不安にさせた。
小山千恵子は、まったく急いでいる様子もなく淡々としている黒川啓太を見上げ、今日は必ず答えを求めるつもりだということを悟った。
「お父さん」小山千恵子は少し苦しそうに口を開いた。「私、わからないの」