部屋の人感センサー式ナイトライトが点灯し、夜の闇を追い払った。
帝都の冬も、そんなに寒くなくなったような気がした。
小山千恵子は目が熱くなり、頭の中がぼんやりとしていた。
逞しい腕にしっかりと抱きしめられ、鼻先には浅野武樹の馴染みのある木質系の香りが漂っていた……
このような普通で当たり前な抱擁を、彼女はかつて持っていたし、また求めても得られなかった時期もあった。
しかし今、このような幸せが目の前にあっても、小山千恵子は深く溺れることを恐れていた。
浅野武樹の背中に軽く置いた小さな手を握りしめ、小山千恵子は爪が掌に食い込む痛みを感じた。
彼女は身を低くし、浅野武樹を軽く押しのけた。「はい、もう行って。」
これ以上このままでは、彼女の心の城がまた浅野武樹に攻め落とされてしまいそうだった。