浅野武樹は一瞬固まったが、心は温かい流れに包まれていた。
小山千恵子が彼のことを心配していた。
この瞬間、浅野武樹は自分の心に卑劣な考えが浮かんでいることを認めざるを得なかった。
そう思うのは本当に卑劣だが、もしこの痛みのおかげで小山千恵子が彼のことをもっと気にかけてくれるのなら、それも悪くないと。
「怒ってる?ごめん」浅野武樹は低い声で優しく言った。「わざと隠したわけじゃない。ただ余計な心配をかけたくなかっただけだ」
小山千恵子は唇を噛んで黙ったまま、外科部長の指示通りに点滴の速度を調整し、体温を測った。
彼女は浅野武樹がこう言うことを知っていた。
すべては彼女のため、彼女のことを考えてのことだと。
でも、彼女が知らされずにいることを望んでいないかもしれないとは考えなかったのか……